より進んだコード進行(その1)

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前章では基本的なダイアトニックコード進行を組み立て、そこからメロディーを作り出す方法について解説しました。これだけでも十分曲を作ることは可能ですが、ある程度やっているうちにだんだん物足りなくなってきます。それは「調性からの離脱」がないからです。ダイアトニックコードというのはスケール上の音だけで作られていますから、どうやっても調性という「重力圏」から脱出することはできません。そのためよく言えば安定している、悪く言えばありきたりの進行になりやすいのです。

こういった「調性の重力圏」から抜け出し、より意外で新鮮な進行を作り出すための第一歩として、ここではセカンダリー・ドミナントというものについて解説します。この使い方をマスターすればメロディーにピリッとアクセントを効かせることができ、バリエーションも大いに広がります。

セカンダリー・ドミナント

通常のドミナントというのはルートの5度上にできるダイアトニックコードのことで、ドミナントモーションによってトニックに強く結びつく性質を持っています。これをさらに拡大解釈して、トニック以外のダイアトニックコードに帰結するようなドミナント7thコードのことをセカンダリー・ドミナントと呼びます。つまりIIm, IIIm,・・・といったI以外のダイアトニックコードを「仮のトニック」とみなしたとき、その5度上にできるドミナント7thコードのことをいいます。セカンダリー・ドミナントの見つけ方は簡単で、仮のトニックから完全5度上、つまり半音7個分上げたところにセブンスコードを作ってやればいいわけです。たとえばCメジャースケールの場合、セカンダリー・ドミナントは次のような関係になります。

セカンダリー・ドミナントの説明

ここでBm7(♭5)だけはちょっと特殊で、トニックとはみなさないため除外します。実際に音を聴いてみればわかりますが、セカンダリー・ドミナントと仮のトニックはドミナントモーションによって結びついているので、仮のトニックに強く進行しようとする性質を持っています。ここで注目すべきことは、本来のドミナントであるG7以外はスケール上にはない音を使わなければ作れないということです。たとえばDmのセカンダリー・ドミナントであるA7にはC#という音が含まれていますし、Emのセカンダリー・ドミナントであるB7にはF#とD#という音が含まれます。言い換えれば、これらのセカンダリー・ドミナントを使えばメロディーとして選べる音の幅が広がるということを意味します。

セカンダリー・ドミナントを使ったコード進行

セカンダリー・ドミナントの見つけ方がわかったところで、実際の曲の中でどのようにして使えばよいのでしょうか? また具体的にコード進行を作ってみることで説明しましょう。

セカンダリー・ドミナントを使う前に、まずダイアトニックコードだけを使ったコード進行を組み立ててみます。原則にしたがって、ここでは次のように作ってみました。キーはCメジャーとします。

T→T→T→SD→SD→D→T

C→Em7→Am7→F→Dm7→G7→C

ここまではもういいですね? これだけなら何の変哲もないダイアトニックコード進行です。これを元にしてセカンダリー・ドミナントを使って変形してみます。

このコード進行でいえば、最初と最後のC以外はすべて「仮のトニック」とみなすことができます。ですから上で見つけたセカンダリー・ドミナントを入れようと思えばどこにでも入れることができます。しかしこれはむやみやたらと入れればよいというものではなく、ワンポイント強調したいところに入れるべきものなので、せいぜい1つか2つに絞った方が無難です。あまり入れすぎるとわけがわからなくなります。ここでは2番目のEm7と4番目のFの前にセカンダリー・ドミナントを入れることにします。上で見つけたセカンダリー・ドミナントをそれぞれ前に挿入してやると次のような進行が出来上がります。

C→B7→Em7→Am7→C7→F→Dm7→G7→C

セカンダリー・ドミナントはドミナントモーションによって仮のトニックに強く帰結しようとしますから、このように任意の場所に「割り込ませる」ことが可能なのです。これでだいぶコード進行が複雑になってきましたね。実際に弾いてみると今までにない感じがすると思います。このままでもいいのですが、せっかくですからもう一ひねり加えてみましょう。前にドミナント7thコードは常にIIm7→V7という形で分割できると述べましたが(トゥー・ファイブ化)、これはセカンダリー・ドミナントに対しても適用されます。上のB7とC7をトゥー・ファイブ化してやると、さらに次のように展開することができます。

C→F#m7→B7→Em7→Am7→Gm7→C7→F→Dm7→G7→C

要するにセカンダリー・ドミナントの4度下のマイナーセブンスコードを挿入すればいいわけですね。これでF#m7やGm7といった見慣れないコードが登場しました。これらはダイアトニックコードにはないF#やB♭という音を含んでいますから、メロディーに使える音の幅がさらに広がったわけです。

では最後にこのコード進行を元にしてメロディーを作ってみましょう。コードの種類が大変多いですが、全体で8小節に収めるために長さを調節します。そしてせっかくセカンダリー・ドミナントを使ったのですから、本来のスケール上にはない音を使ってメロディーを作ります。ここがポイントですね。一例として次のようなメロディーを作ってみました。

セカンダリー・ドミナントを使ったメロディーの例
♪音を聴く

これでだいぶ垢抜けた感じになったのがわかるでしょう。2小節目と5小節目にあるスケール外の音がポイントですね。ここでAm7のコードの中にB♭の音が使われているのを不思議に思われるかもしれませんが、これはシンコペーションのリズムによって次の小節の音が半拍分前にずれたと考えてもらえば結構です。

セカンダリー・ドミナントというのはその考え方自体単純なものですが、これを覚えるだけでコード進行の幅は飛躍的に広がり、メロディーにも一層磨きがかかります。これは別の見方をすれば、一時的に転調が起こっていることに他なりません。聴いていて何となく「切ない」ような感じがする部分はたいがいこのセカンダリー・ドミナントが使われていることが多く、ポップスではぐっと盛り上げたいサビの部分に多用されます。ただ「ここぞ」というところで盛り上げてこそ意味があるのであって、のべつまくなしに盛り上げっぱなしだと何が言いたいのかわからなくなります。ハサミと何とかは使いようと言いますが、要するに限度をわきまえて「キメ」の部分で一発かましてやればグッと心にくるメロディーになるわけです。

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