ポピュラー音楽におけるコード進行の原理
前章でクラシックにおけるコード進行の原理について解説しました。ポピュラー音楽においても基本はクラシックと同じですが、それよりもかなり「緩い」ものになっています。ポピュラー音楽では「聴いていて気持ちよければOK」とする傾向があるからです。ここではダイアトニックコードを機能別に分類して結合していく方法について解説します。
代理コード
ダイアトニックコードの章ではI度・IV度・V度のコードをそれぞれトニック、サブドミナント、ドミナントと呼び、総称して主要三和音と呼ぶことを説明しました。しかしそれ以外のコードも構成音の類似性から上のいずれかに分類することができます。これを代理コードと呼びます。代理コードは主要三和音と同様の性格を持ち、主要三和音に置き換えて使うことができます。
代理コードは主要三和音との構成音の共通性から見つけることができます。たとえばCメジャースケールにおけるAm7というコードの構成音はラ・ド・ミ・ソですが、この中にはド・ミ・ソが含まれていますね。したがってAm7はCと同じくトニックとして分類することができます。同様にDm7というコードの構成音はレ・ファ・ラ・ドですから、その中にファ・ラ・ドが含まれています。したがってDm7はFと同じくサブドミナントとして分類することができます。このようにしてすべてのダイアトニックコードについて分類すると、下図のようにまとめることができます。

この中で同じグループに属するものは主要三和音に準ずるものとして置き換えて使うことができます。
すべてのキーでダイアトニックコードがわかる早見表を作成しました。ご利用下さい。
機能別に分類されたコード進行の原則
すべてのダイアトニックコードを機能別に分類できたところで、それらを結び付けていく方法について解説していきましょう。その原則は非常に単純で、下図にまとめたルールがすべてです。

トニックからの進行
クラシックではIのコードからはどこへでも進めたように、やはりトニックからはどこへでも進むことができます。トニックが連続するパターンもよく用いられます。
サブドミナントからの進行
サブドミナントからも比較的自由に進行することができます。サブドミナントからドミナントへの進行はIV→V7型に属しますし、サブドミナントからトニックへの進行はⅣ→I型のサブドミナント終止に該当します。またサブドミナントが連続するパターンもよく用いられます。
ドミナントからの進行
これはV7→I型のドミナント終止に該当します。ドミナントはトニックに結びつこうとする傾向が非常に強いため、それ以外の進行は通常用いられません。
ダイアトニックコード進行を組み立てる
コード進行の原則は非常に単純でクラシックより覚えることは少ないですね。それではこれを応用して実際にコード進行を組み立ててみましょう。コード進行は次のような流れで作っていきます。
1. トニック(T)、サブドミナント(SD)、ドミナント(D)を上の原則にしたがって並べる。
↓
2. キー(スケール)を決める。
↓
3. 使用可能な代理コードを吟味しながら実際のコードに置き換えていく。
↓
4. 譜割を決める。
原則にしたがってT, SD, Dを配置
ではとりあえず次のような進行を考えてみましょう。曲の頭は必ずしもトニックから始める必要はありません。ドミナント始まりは普通ないですが、サブドミナント始まりはよく見られます。また別にT, SD, Dすべてを使う必要もありません。
SD→D→T→T→SD→T→SD→T
キーを決める
ここでは一番簡単なCメジャースケールにしておきましょう。
使用するコードを選ぶ
主要三和音だけを使ってT→C, SD→F, D→G7のように置き換えてももちろんOKですが、それではあまりにも「幼稚な感じ」になってしまいます。そこで同じグループの中から使用可能な代理コードに置き換えることを考えてみます。これは理屈というよりも実際に音を聴いてフィーリングで選んだ方がいいでしょう。ここでは一応次のようにコードを選ぶものとします。
Dm7→G7→Em7→Am7→Fmaj7→Em7→Dm7→Cmaj7
ただそれでも何らかの指針はあった方が選びやすいので、クラシックの理論も考慮に入れながら選ぶとよりスムーズにつながります。たとえば上のDm7→G7やEm7→Am7は4度上行する形になっており、Am7→Fmaj7は3度下行する形になっているので大変スムーズにつながります。特にDm7→G7という進行はIIm7→V7と4度上行する形になっており、慣用句的に多用されるものです。ドミナント7thコードはこのようにいつでもIIm7→V7という形に分割することができ、これをトゥー・ファイブ化と呼んでいます。
譜割を決める
これでコードの並びはできましたが、実際にどのように演奏するかはまだ決まっていません。コードの変わり目は別に1小節ずつと決まっているわけではありません。1小節に2つ入れても構わないし、途中で長さを変えても構いません。実際、小節の数に合わせて帳尻を合わせることはよくあります。また演奏する楽器にもよりますが、コードの音の並びは必ずしも原則通りではなく、演奏しやすいように転回させる必要があります。これはコードを続けて鳴らした場合にスムーズにつながるためにも必要です。このように実際の譜割を決めることをボイシングと呼びます。ここでは1小節に2つコードを入れることにして、ピアノで演奏する場合を想定してボイシングしてみました。

ボイシングのポイントは、コードの一番上の音がなるべく動かないように転回させることです。原則通りの音の並びで弾いてみるとわかりますが、上の音がバラバラに飛んでしまうとすごく聴きづらいのです。また三和音と四和音の場合がありますが、音の数は常に4個に揃えることも重要です。そうでないと音の厚みに差が生まれてしまうのです。通常ピアノの左手はルート音を弾きますが、四和音の場合は右手のパートはルート音を省略して3個だけ弾きます。これで響きがスッキリして三和音でも四和音でもスムーズにつながります。
以上でコード進行が完成しました。実際に音を出してみると主要三和音だけで作った場合よりぐっと大人っぽい洗練された感じになるのがわかるでしょう。ここでのポイントは2つあります。まず1小節目から2小節目にかけてのG7→Em7という進行はクラシックでは許されていませんでしたが、聴いてみると自然に聞こえます。また3小節目から4小節目にかけてはIV→III→II→Iとルートが2度ずつ下行する形になっていますが、これもクラシックでは許されていませんでした。しかし実際聴いてみるとカッコいい感じがするでしょう? ポピュラー音楽では聴いていて不自然でなければそれでいいのです。
ここまでの説明で自由にダイアトニックコードを組み合わせられるようになったと思います。あとは自分でいろいろ考えて新しいコード進行を作ってみましょう。とにかく大事なことは、実際に音を出してカッコいい!と思えることです。
楽節と終止
ここで終止のパターンについてもう一度整理しておきましょう。なおここで言う「終止」とは今までに出てきた「終止形」とはまったく別物ですので注意が必要です。
曲の中で一つの区切りとなる単位のことを楽節と呼びます。別に長さに決まりがあるわけではありませんが、一般的には4小節ないし8小節が一つの楽節になることがほとんどです。たとえばポップスでいえばAメロ、Bメロ、サビといったものがこれに当たります。それ自体が一つのフレーズとして完結しており、何度か繰り返される一つのかたまりと思えばいいわけですね。そしてこの楽節の終わり方には大きく分けて次の3つのパターンが存在します。

全終止
楽節がスケール上の主和音(トニック)で終わるとき、全終止と呼びます。曲の終わりはたいていこうなっていますし、曲の途中であってもいったん区切りをつける場合にも使われます。最も安定した主和音で終わるわけですから、いかにも「終わった」という感じを与えることができます。
半終止
楽節がドミナント、すなわちVやV7の和音で終わるとき、半終止と呼びます。これはいったん区切りをつけるけれどもまだ続きがある感じを与えたいときに使われます。たとえばAメロを2回繰り返すような場合、1回目の終わりは半終止にしてまだ続きがあるように思わせるのが常套手段ですね。なおドミナントとしてV7を使うと次にIにつながる感じが非常に強くなってしまうため、いったん区切りをつけるという意味ではVを使うのが望ましいとされています。
偽終止
楽節がトニックの代理コード、すなわちIIImやVIm(マイナースケールでは♭IIIまたは♭VI)の和音で終わるとき、偽終止と呼びます。これはV7からIへ進んでいったん終わるように見せかけておいて別の展開に入っていくときに使われます。たとえばポップスではサビに入る前などに典型的に見られます。これを効果的に使うと聴き手の予想をいい意味で裏切ることができて、曲にメリハリをつけることができます。
以上、楽節と終止について解説しましたが、実際の曲では複数の楽節から成り立っており、一つの楽節を繰り返したり、少し変形したりすることがよく行われます。したがってコード進行を組み立てる場合には、まず曲全体の構成を考えて「設計図」を作るのが手っ取り早いといえます。そこで各楽節ごとに終止のパターンをどうするかを考えていけばうまく行きます。
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