ダイアトニックコード

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コード(chord)というのは和音のことで、普通は3つ以上の音を積み重ねたものをいいます。一番基本的な和音はド・ミ・ソを重ねたものであるということはたぶん学校の音楽でも習っているはずでしょう。ここではそれをさらに発展させ、ポピュラー音楽の基礎となるダイアトニックコードというものについて解説します。

メジャースケールにおけるダイアトニックコード

ダイアトニックコードというのは、スケール上の各音を一番下にして、そこから1つおきにスケール上の音を3つないし4つ積み重ねたものを言います。つまりドに対してはド・ミ・ソ、レに対してはレ・ファ・ラという和音を作ることができるわけです。これをスケール上の音すべてについて譜面に書いてみると下図のようになります。

メジャースケールにおけるダイアトニックコード

ここで各和音の一番下の音をルート(根音)と呼びます。つまりスケール上の音すべてをルートとした和音を全部で7種類作ることができるわけです。

コードの意味は後で説明するとして、まずピアノなりギターなりで音を出して聴いてみましょう。小文字のmが付いたコードをマイナーコード、付かないコードをメジャーコードと呼びますが、メジャーコードは明るい感じ、マイナーコードは暗い感じがするのがまずわかると思います。

ここで三和音と四和音を示しましたが、これは必ずどちらかを使うというわけではなく、曲調に応じて適宜使い分けるものと思って下さい。色に例えるとわかりやすいのですが、三和音は原色、四和音は中間色にあたると言えます。三和音はストレートで力強い感じ、四和音は少し曖昧な感じ、あるいは大人っぽい雰囲気になります。子供の描いた絵というのはたいてい原色ばかりが使われていますが、大人になるにつれて中間色を好むようになりますよね。音楽もそれと同じで、三和音ばかりで曲を作ると何となく「子供っぽい感じ」になってしまうのです。そこで四和音を適当に混ぜて「少しぼかす」ことによって、ぐっと大人の雰囲気になってくるわけです。もちろん四和音メインで作っていても、時には三和音の力強さが欲しい場面もありますし、そこは曲調に応じて使い分ければいいのです。

コードの構成とコードネームの規則

コードネームというのは規則的にできていて、それを見ただけでコードの構成がわかるようになっています。

コードの構成とコードネームの規則

まず上の図を見て下さい。三和音の場合はルートから数えて1度・3度・5度の音、四和音の場合は1度・3度・5度・7度の音で構成されています。この構造はどのダイアトニックコードについても共通です。ただし3度と7度が長音程になるか短音程になるかはコードによって異なります。また7度の音は四和音にのみ存在するもので、これは付加的な意味合いを持っています。コードの性格は1度・3度・5度の音によって決まるため、7度の音はあってもなくても基本的な性格は変わりません。したがって三和音も四和音も同じように使い分けることができるのです。

次にコードネームの規則について見ていきましょう。最初のアルファベット大文字は言うまでもなくコードのルート音を表します。調によってはこれにシャープやフラットの記号が付くこともあります。その場合はアルファベットの直後に置くことになっています。

ルート音のすぐ右には3度の音を示す記号を書くことになっています。3度の音が半音4個分すなわち長3度の場合は何も書かず、半音3個分すなわち短3度の場合は小文字のmを書くことになっています。このmはminorすなわちマイナーコードであることを示しています。実はメジャーコードとマイナーコードの違いはこの3度の音だけで決まるのです。響きが明るく感じるか暗く感じるかの違いはすべてこの3度音程に由来しています。ですから3度の音というのはコードの性格を決定づける重要な役割を持っているわけです。

そしてさらにその右に7あるいはmaj7が付く場合がありますが、これは四和音の場合に限られます。この7という数字は下から4番目の音、すなわち7度の音を表しています。この7度が短7度の場合は数字の7だけ、長7度の場合はmaj7を付けることになっています。なおmaj7は他にM7あるいは△7のように書かれることもあり、統一はされていません。読み方は7だけの場合はセブンス、maj7の場合はメジャーセブンスと読みます。

CメジャースケールにおいてはBm7(♭5)というコードだけがちょっと特殊です。この♭5というのは5度の音が半音下がったことを意味し、本来の完全5度より半音狭い減5度音程になっているわけです。ピアノの鍵盤を見てもらえばわかりますが、シと上のファの間は半音6個分になっていますね。すなわち完全5度ではなく、減5度になっているのです。5度が完全5度にならないのはシをルートにしたときだけです。実際音を出してみると何となく不安定な響きがしますが、これは減5度音程に由来するものです。このように5度が完全5度でない場合、コードネームの右上に(♭5)と書くことになっていますが、これも楽譜によってまちまちで、-5と書いたり、Bm7-5のように7の後ろに続けて書くこともあります。ちなみに読み方はフラットファイブを最後に付けて読みます。Bm7(♭5)ならビーマイナーセブンス・フラットファイブですね。

マイナースケールについて補足

マイナースケールでもメジャースケールと同様にダイアトニックコードを作ることが可能ですが、マイナースケールの場合は少し複雑な事情があります。スケールの項で西洋音楽ではメジャースケールとマイナースケールの二つを理解すれば十分と述べましたが、実はちょっと十分ではありません。またややこしくなるのですが、マイナースケールには便宜的に3種類のスケールが存在するのです。ダイアトニックコードの解説に移る前に、少しだけマイナースケールについて補足しておきましょう。

3つのマイナースケール

初めに説明したマイナースケールはラから始まるものでしたが、これは見方を変えればメジャースケールの音の並びを変えただけに過ぎません。このようにメジャースケールと同じ音だけを使って作られるマイナースケールのことをナチュラルマイナースケール(自然的短音階)と呼びます。

ただメジャースケールに比べて一つだけ都合の悪い点があります。メジャースケールでは第7音のシと第8音のドの間は半音になっており、そのためシからドへ強く進もうとする性質を持っています。主音を導く音という意味で、こういう音のことを導音と呼んでいます。ところがマイナースケールでは第7音のソと第8音のラの間は全音のため、主音へ進もうとする力がメジャースケールに比べると弱いのです。この欠点を補うために第7音のソを半音上げてソ#とする音階が考え出されました。これをハーモニックマイナースケール(和声的短音階)と呼びます。これでメジャースケールと同じようにソ#の音が導音の役割を果たすわけです。

ところがソの音を半音上げるとまた都合の悪いことが起こります。それはファとソ#の間が開きすぎて歌いにくくなってしまうからです。その問題を回避するため、今度はファの音を半音上げてファ#とする音階が考え出されました。これをメロディックマイナースケール(旋律的短音階)と呼びます。これで歌いにくさは解消されたわけですが、よくよく考えるとこれでは第3音以外はメジャースケールとまったく同じになってしまいますね。そこで上行する旋律ではファとソを半音上げ、下行する旋律では元に戻すという変則パターンを使用します。つまり上りはメジャースケール、下りはナチュラルマイナースケールになっているわけです。

以上でマイナースケールについて簡単に補足しましたが、別に全部理解する必要はありません。ここでは「Aマイナースケールのファとソにはシャープが付く場合がある」とだけ覚えておけば十分でしょう。

マイナースケールにおけるダイアトニックコード

マイナースケールにおいてもメジャースケールと同様にしてダイアトニックコードを作ることができます。ただ先述の理由でマイナースケールには便宜上3つのスケールが存在するため、メジャースケールに比べると少々複雑です。原理的には3つのスケールそれぞれについて7種類のダイアトニックコードができるわけですから、全部で7×3=21通りの組み合わせができるはずですが、実際にはそのすべてが使えるわけではなく、ほとんど使われないコードというものも存在します。ここでは実際に使われることの多いコードのみをピックアップして下図に示します。

マイナースケールにおけるダイアトニックコード

ここでは第6音と第7音の上にできるコードが2種類存在することに注意して下さい。つまりナチュラルマイナースケール上にできるコードと、ハーモニックマイナースケールあるいはメロディックマイナースケール上にできるコードが共存するわけです。

もう一つ注意しなければならないのは、第5音の上にできるコード(EおよびE7)の3度の音が半音上がってソ#になっていることです。これは理論的にはハーモニックマイナースケールから音を「借りてきた」ことになるのですが、主音へ解決させるための導音としての性格を強めるためです。もしナチュラルマイナースケールの音のみで作ればEmあるいはEm7となりますが、実際にはこれはあまり使われず、EあるいはE7として使用するのが一般的です。この理屈については後に説明するドミナント7thの考え方で明らかになると思います。

コードネームの度数表示

この講座ではわかりやすいようにCメジャーあるいはAマイナーのキーでコードを説明していますが、もちろん実際は12種類のキーが存在するわけですからこれは一般的ではありません。直接的にCとかAmのようなコードネームを書くと他のキーに移調する際に不便です。そこでもっと一般的な表記法として、度数で表示する方法がよく用いられます。

これはスケールの主音を基準にした場合のルートの音程をローマ数字で表すものです。たとえばCメジャースケールの場合、CはI、DmはIIm、EmはIIImのようになります。つまり実際のコードネームのルート音名の部分をローマ数字の度数に置き換えればいいわけです。実際の表記はダイアトニックコードの説明図の中に入れておきましたので参照して下さい。以後の説明では、汎用性を持たせるために原則としてコードネームは度数表示を使用することにします。

度数表示で注意することは、長音程・短音程を区別するということです。メジャースケールの場合はすべて長音程となりますが、マイナースケールの場合は3度、6度、7度が短音程になることに注意して下さい。この場合、ローマ数字の前に♭を付けて区別します。また先に説明したように、6度と7度のコードには長音程と短音程の両方が存在することに注意して下さい。つまり♭の付くコードと付かないコードが共存します。

まとめとして、メジャースケール、マイナースケールそれぞれの上にできるダイアトニックコードを度数表示すると次のようになります。なおdimはディミニッシュコードを表しますが、これは少し特殊なので後で説明します。

【メジャースケール】
三和音:I, IIm, IIIm, IV, V, VIm, VIIm(♭5)
四和音:Imaj7, IIm7, IIIm7, IVmaj7, V7, VIm7, VIIm7(♭5)
【マイナースケール】
三和音:Im, IIm(♭5), ♭III, IVm, V, ♭VI, VIm(♭5), ♭VII, VIIm(♭5)
四和音:Im7, IIm7(♭5), ♭IIImaj7, IVm7, V7, ♭VImaj7, VIm7(♭5), ♭VII7, VIIdim

主要三和音とコードの役割

ダイアトニックコードは全部で7種類(マイナースケールの場合はもっと多いですが)存在しますが、そのすべてが同等というわけではなく、特に重要な意味を持つコードが3つ存在します。それは1度、4度、5度の上にできるダイアトニックコードです。これらを主要三和音と呼びます。メジャースケール、マイナースケールにおける主要三和音は次の通りです。

【メジャースケール】
(トニック)I, Imaj7
(サブドミナント)IV, IVmaj7
(ドミナント)V, V7
【マイナースケール】
(トニック)Im, Im7
(サブドミナント)IVm, IVm7
(ドミナント)V, V7

ここでI度の和音を主和音あるいはトニック(tonic)と呼び、IV度の和音を下属和音あるいはサブドミナント(sub dominant)と呼び、V度の和音を属和音あるいはドミナント(dominant)と呼びます。

これらの働きは後で詳しく解説しますが、最も重要なのはトニックで、その調における中心的な役割を果たします。これはいわば重力のようなもので、どんな曲であっても最終的にはトニックに落ち着くように強力に引っ張られています。そうでなければ「終わった感じ」がしないのです。一方ドミナントはトニックに強く結びつく性質を持ち、サブドミナントはドミナントを導く働きを持っています。トニック、ドミナント、サブドミナントはしばしば頭文字をとってそれぞれT, D, SDのように略記されます。この講座でもこの略記法を主に使用します。

主要三和音というのはそれだけで完結しており、スケール内に収まっている限り、どんなメロディーであってもそれだけで伴奏をつけることができるのです。ではそれさえあれば十分かというと、決してそういうわけではありません。主要三和音だけで作った曲というのは得てして「幼稚な感じ」になりやすいのです。それを避けるために他の和音の助けを借りる必要が出てくるわけです。

すべてのキーでダイアトニックコードがわかる早見表を作成しました。ご利用下さい。

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