【第2回】メジャースケールとマイナースケール

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今回はスケールという考え方について解説します。スケールとは簡潔に言えば音の並び方であり、音楽を作る上ですべての土台となる重要な概念です。ここでは代表的なスケールとしてメジャースケールとマイナースケールを取り上げ、それぞれの違いについて理解して下さい。

スケールとは何か?

音楽理論で言うスケールとは音階のことですが、大ざっぱに言えば1オクターブに12個ある音のうちどの音とどの音を使うか?という「音の選び方」であると言えます。

12音をすべて使ったスケールのことをクロマチックスケール、別名半音階とも呼びます。隣り合う音はすべて半音の音程で並んでいることを特徴とします。この場合、白鍵と黒鍵を含めて鍵盤上の音を区別なく使えるわけで非常に自由度が高く、一見便利なように思えます。

しかし12音全部を使ってメロディーを作ったらどうなるでしょうか? 全く音楽知識のない人が作った場合、おそらくまとまりのないとても音楽とは呼べないものしかできないでしょう。もし鍵盤上の12音をでたらめに弾けばまるで前衛音楽のような音の羅列にしか聞こえないはずです。つまり全ての音が等間隔で並んでいると音に「求心力」のようなものがないため、バラバラになってしまうのです。

ここまで言うと勘の良い方はおわかりかと思いますが、スケールを使う目的とは、音と音の間隔をあえて等間隔でないようにしてそれぞれの音に特徴を持たせ、特定の音に求心力を持たせることに他ならないのです。そうすることによって一つの音に集まろうとする方向性が生まれ、音の動き方に秩序ができてきます。

したがって12音のうち、メロディーとして使いやすい音を取捨選択して組み立て直したものがスケールであると言えます。スケールにしたがってメロディーを作れば、たとえ鍵盤をでたらめに弾いたとしてもある程度音楽的に聞こえるようにできているわけです。

スケールは無数にある

我々が今日耳にしているクラシックやポピュラーミュージックで最も一般的に使われているスケールはメジャースケール(長調)とマイナースケール(短調)と呼ばれるものです。長調は明るい感じがするのに対し、短調は暗い感じがするのが特徴です。

しかしスケールはこの2つだけに限りません。世界中にはそれこそ無数のスケールが存在しています。たとえば日本の童謡でよく用いられる四七抜き音階をはじめ、沖縄音楽に特徴的な琉球音階、ジプシー音楽に特徴的なジプシースケール、フラメンコで用いられるスパニッシュスケールなど、民族音楽の数だけ存在すると言っても過言ではありません。このようなスケールは民族音楽に固有のものですから、そのスケールを使ってメロディーを作れば何となくそれっぽくなるという特徴があります。それこそがスケールを使うメリットであり、醍醐味なのです。

多様なスケールについてはいつか述べたいと思いますが、とりあえず今回は最も基本的なメジャースケールとマイナースケールの2つについて違いをしっかり理解していただきたいと思います。

Cメジャースケール

ドを起点として白鍵だけをすべて使って作ったスケールのことをCメジャースケール(ハ長調)と呼びます。

これは誰でも知っている「ドレミファソラシド」のことです。弾いてみるといかにも明るい感じがしますね。ここで音と音の間隔を半音単位で眺めてみると、決して等間隔ではないことがわかりますね。鍵盤上には黒鍵のない箇所が2つ存在します。それはミとファ、シとドの間です。つまり3番目と4番目、そして7番目と8番目の間だけが半音であり、それ以外はすべて全音離れていることがわかります。覚えやすいように書けば「全全半全全全半」という並びになっています。これこそがメジャースケールを決定付ける最大の特徴であるわけです。鍵盤の並びがちょうどそうなっているのでよくできているように思えますが、実は逆にそうなるように鍵盤が考え出されたということなのです。ドから始めればたまたま全部が白鍵になるわけですが、どの音を起点にしても「全全半全全全半」という並び方を守ればメジャースケールは作れることに注意して下さい。その場合は一部黒鍵も混じるようになります。

スケールの起点となるドの音のことを主音(トニック)と呼びます。ここで最も大事なことは、主音がスケールの中心であり、どの音から出発したとしても最終的には主音に戻ってこようとする力が強く働いています。つまりハ長調の曲であればほとんどの場合、最後はドの音で終わるのが普通です。そうするのが最も自然に「終わった」という感じがするからです。たまにミやソで終わる曲もあることはありますが、その場合は何となくまだ続きがあるような中途半端さが残ります。それは意図的に余韻を残すことを狙っているわけで、普通はドで終わらないと落ち着かないのです。

スケールの最後にあるシとドの間が半音になっていることに注目して下さい。ここが半音であるからこそ、シの音は半音上がってドに戻ろうとする力が非常に強く働いているのです。このように主音に導く役割をする音のことを導音(リーディングトーン)と呼びます。Cメジャースケールであればシの音が導音になっているわけです。

導音が存在するおかげで、主音を中心として最終的には主音に戻ろうとする力が働いているわけで、このことを俗に「主音の重力圏」という言い方をしたりすることがあります。つまり主音には強い引力があるのです。このように主音を中心とした秩序が生まれることを調性と呼んでいます。もしスケールの起点をドではなくレから始めたとしたら今度はレが主音になるわけで、12音すべてが主音になることができます。したがって調性は全部で12通りあることになり、長調と短調を合わせると24通りの調性が存在するわけです。

Aマイナースケール

ラを起点として白鍵だけをすべて使って作ったスケールのことをAマイナースケール(イ短調)と呼びます。

つまり「ラシドレミファソラ」ですが、使っている音はハ長調と全く同じなのに、今度は暗い感じがするのが特徴です。唯一の違いは始まりの音がドではなくラに変わっただけです。とても不思議な気がしますが、鍵盤をよく眺めてみると音と音の間隔がハ長調とは違うことに気づくでしょう。今度は黒鍵のない箇所が2番目と3番目、そして5番目と6番目にあります。このように音と音の間隔が変わっただけで雰囲気がガラッと変わるのです。全音と半音の並びを覚えやすいように書くと「全半全全半全全」となります。これを2つ前にずらしてローテーションすれば結局ハ長調と全く同じになることもわかりますね。このようにハ長調とイ短調は実は同じものの別の見方であり、兄弟みたいな存在なのです。そしてラとドの間の音程は短3度であることに注目して下さい。長調の短3度下には必ずペアとなる短調が存在しているということであり、このような関係を平行調と呼びます。

音と音の間隔に注目すると、メジャースケールとは一つ違うことがあります。Cメジャースケールでは主音の半音下にシの音が隣接しており、導音として機能していたわけですが、Aマイナースケールではそのような音が存在しません。主音の下にあるソの音も上にあるシの音も全音離れていますから、どちらから見ても全音離れており、宙ぶらりんの状態になっているのです。そうすると主音のラに戻ろうとする力はメジャースケールに比べると弱くなってしまいます。このようにマイナースケールでは導音となる音が存在しないため、主音に戻ろうとする力はメジャースケールに比べて弱いという特徴があります。このためマイナースケールは不完全なスケールと考えられており、後にそれを解消するために複数のマイナースケールが生み出されることになります。

メジャースケールとマイナースケールの違い

ここでもう一度メジャースケールとマイナースケールの違いについてまとめておきましょう。CメジャースケールとAマイナースケールでは始まりの音が違うだけで、使っている音自体は全く同じです。結局は音と音の間隔が「全全半全全全半」であるか、「全半全全半全全」であるかの違いしかありません。これを階段の高さに例えると次のような絵になります。

ここで高い段差が全音、低い段差が半音に相当します。こうやって眺めると、長調と短調とは結局「階段の上がり方」の違いであることがよくわかるでしょう。

Cマイナースケールを推奨する理由

一般的な理論書では長調はCメジャースケール、短調はAマイナースケールを使って説明するのが普通です。これらは平行調の関係にあり、すべて白鍵だけで弾けるため簡単であることがその理由と思われます。それはもちろん一理あるのですが、個人的な意見としては短調も同じドを起点とするCマイナースケールを使って考えるのがわかりやすいと思うのです。以下、その理由について述べます。

まず、スケールの起点となる音がドとラのように違っていれば、長調と短調の比較をやりにくいということです。これは誰しも認めるだろうと思います。上で述べたように長調と短調の違いは音と音の間隔の違いでしかないわけですが、どちらも白鍵の音しか使わないのでどこがどう違うのか鍵盤をパッと見てすぐにはわかりにくいんですよね。特に初心者には違いを見出すことが難しいだろうと思われます。

もう一つはラを起点にしてしまうと音程を数えるのが難しくなるということです。たとえば「ラを基準として長6度の音はどれか?」と言われたらすぐに答えられますか? 長調の場合、われわれはまずハ長調で考えるのが暗黙の習慣になっています。もちろん経験者になればどの調でも瞬時に思い浮かぶでしょうけど、初心者であるほどいったんハ長調に置き換えないと数えられないはずです。ですから短調でもハ長調と同じく、ドを起点とするハ短調、すなわちCマイナースケールで考えるのが合理的なのです。ハ長調の音程をすべて知っていれば、そこからハ短調の音程はすぐに導き出せるからです。これは後にコードを音名ではなく度数で表す場合にも生きてきます。

以上のことは自分が音楽理論を勉強する中で自然に出てきた疑問です。Cマイナースケールを採用することによって黒鍵が3つ混じることになり、一見複雑なように見えますが、そのことがかえってわかりやすくなるはずです。したがって、本講座では特に断りがない限り、短調はCマイナースケールを使って説明するものとします。

Cマイナースケールを作ってみる

Aマイナースケールにおける音と音の間隔は「全半全全半全全」でしたから、それをドを起点にして当てはめてみると下の図のようになります。

すぐにわかりにくいかもしれませんが、半音単位で数えてみると確かにそうなっていることがわかるはずです。これで明らかになったことは、CマイナースケールではCメジャースケールと比べて、ミとラとシの音にフラットが付いたということです。

上の図のようにCメジャースケールとCマイナースケールを並べて音程を数えてやると違いは一目瞭然です。すなわち、長調では3度、6度、7度がすべて長音程になりますが、短調ではこれらがすべて短音程に変わります。これこそが長調と短調の違いだったのです。

楽譜で示すと、Cマイナースケールでは3度、6度、7度の音にフラットが付くのが特徴となります。以上でメジャースケールとマイナースケールの違いをおわかりいただけたでしょうか?

なお、ハ長調とハ短調のように主音が同じ長調と短調のペアのことを同主調と呼びます。

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