ヤマハ ミニキーボード PSS-A50のレビュー

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2019年11月頃に発売され、大人気のヤマハPSS-A50。発売直後から超品薄で全く手に入らず、一時は海外から輸入した物が法外な値段で取引されていました。2020年中もずっと買えなかったのですが、2021年になってようやく在庫が復活し始め、アマゾンでも定価で買えるようになりました。

すでに1月に入手していたのですが、なかなかレビューを書く暇がなかったので今頃になって書いてみます。すでにあちこちのブログやYouTubeでレビューされているので今さら感満載ですが(笑)、自分なりの視点でまとめてみたいと思います。

なぜこれほど人気なのか?

発売当初から多くのDTM愛好家が飛び付いてあっという間に入手困難になったのですが、それにはもっともな理由があります。人気の理由について分析してみましょう。

本格派ミニキーボードとして唯一無二の存在

これまでこの手のミニキーボードといえばカシオのSA-46/SA-76くらいしかありませんでした。ほぼカシオの独擅場といっていいくらいです。しかしそれらは非常にチープで子供向けのおもちゃという印象を拭えませんでした。それでもちょっとした音出しには十分なので、ミュージシャンでも愛用者が多かったのです。

そんなカシオの牙城を崩すべく、市場に割って入ったのがヤマハのPSS-A50です。37鍵の本格的なミニ鍵盤を備え、実用的な42音色、オートアルペジエイター、レコーディング機能、さらにはMIDI入出力まで備えた本格派です。多くのDTM愛好家がこういう製品を待ち望んでいたのは間違いないでしょう。むしろなぜ今までなかったのかが不思議なくらいです。この手のミニキーボードに大きな市場性があるということをPSS-A50は見事に証明しました。

価格が安い

PSS-A50はオープン価格ですが、実売価格は税込12,100円です。これはたとえばカシオのSA-46に比べれば3倍以上となるので、単なるミニキーボードとして見れば決して安くはありません。しかし上で述べたような豊富な機能を備えた本格派であることを考えると、これは破格であると言えます。だって音源を持たないMIDIキーボードでも1万円くらいしますからね、それを考えると超お買い得といえます。これがもし5万円くらいするなら誰も見向きもしないでしょうけど、1万円ちょっとという手を出しやすい価格に設定してきたところが戦略的といえます。

電源方式が豊富

この手のミニキーボードは電池駆動ができて場所を問わずに使えるということが魅力です。だからカシオのSA-46も人気があったわけですが、単3×6本を必要とするところがちょっとネックです。普通、単3電池は4本パックで売られていることが多く、充電池を使うにしても一度に6本を充電することは難しいですね。6本というのは何かと使い勝手が悪いのです。

ところがPSS-A50は単3×4本で動作するというところが大きなアドバンテージになります。これなら充電池を使っても一度に充電できるので大変便利です。多くの人がそう思っているのではないでしょうか?

さらにはUSB電源で駆動することもできるので、モバイルバッテリーを使えるほか、PCと接続するとUSBバスパワーで動作するため外部電源は不要になり大変便利です。昨今はスマホの充電器くらい誰でも持っているでしょうから、まさに時代にマッチした仕様といえます。

このようにシチュエーションを選ばない豊富な電源方式がPSS-A50の最大の魅力であり、これほどまでの人気を集めた理由だと思っています。

レビュー

実際に使ってみて感じたことを率直にレビューしたいと思います。すでに腐るほどレビューが出てると思いますので、一般的なことは割愛し、自分が良いと思った点、悪いと思った点に絞って解説します。

3オクターブ鍵盤は必要にして十分

PSS-A50は3オクターブのミニ鍵盤を装備しています。これはSA-46の2オクターブ半より多く、SA-76の3オクターブ半よりは少ないです。しかし3オクターブというのはちょうど良いところを押さえていると思います。

3オクターブあれば左手でベースラインを弾き、右手でメロディーとハーモニーを弾くということが一応可能になるわけです。これが2オクターブ半であればちょっと物足りなく窮屈になります。かといってこれ以上大きいと携帯性が悪くなり、ミニキーボードとしては魅力が薄れますね。ヤマハはその辺がわかっていて、美味しいところを突いてきたなと思います。

鍵盤の質が非常に良い

PSS-A50はHQ(High Quality)鍵盤と呼ばれるrefaceシリーズと同じ鍵盤を搭載しています。この鍵盤の出来が非常に良く、カシオと比較して圧倒的なアドバンテージだと思います。安いキーボードだと鍵盤のタッチがスカスカだったりフニャフニャだったりするのが普通ですが、PSS-A50の鍵盤はしっかりした打鍵感があり、ぐらつきもほとんどありません。弾いていて非常に気持ちのいい鍵盤です。さすがに値段なりのことはあると思います。

そして、弾いてみてミニ鍵盤なのになぜか弾きやすい!と感じました。それにはこんな理由があります。

ピアノが弾ける人ほどよくわかると思いますが、ミニ鍵盤はものすごく弾きづらいです。そして弾きにくいと感じる理由は横のピッチではなく、奥行の短さなのです。これが短いと指が手前に落ちたり、奥の方が弾きにくかったりします。


一般的なミニ鍵盤では白鍵の長さが8cmであることが多いですが、これでは窮屈で非常に弾きにくいです。


一方、PSS-A50では白鍵の長さが9cmあります。つまり一般的なミニ鍵盤に比べて1センチ長いことが弾きやすいと感じる秘密だったのです。この差はものすごく大きいですね。これならミニ鍵盤であることをあまり意識せずに弾けます。

音質は普通

PSS-A50について音質が良いと言う人が結構いますが、それはこの手のミニキーボードとしてはという意味であって、本格的なシンセに匹敵するというわけではありません。確かにSA-46に比べればリアルな音がすると思いますが、良くも悪くもポータトーンの音質です。それ以上のものではありません。過度な期待は禁物です。

音源はモノラル

PSS-A50には内蔵スピーカーが1個しかありませんので当然モノラルですが、ヘッドフォン使用時はステレオになると言っている人がかなりいます。でもこれは間違いです。音源自体がモノラルなので、ヘッドフォンを接続しても左右同じ音しか出てきません。PDF版のMIDIインプリメンテーションチャートを見ると、パンポットが受信不可となっていることからもそう断定できます。つまりもともとモノラルだからパンポットは受け付けないのです。

できることはシンプル

ヤマハのデモムービーなどを見ていると何か凄いことができそうな気がしますが、実はできることは非常にシンプルです。基本的にはオートアルペジエイターとフレーズレコーディングの二つだけです。ポータブルキーボードによくあるリズムマシンや自動伴奏といった機能はありませんし、ワークステーションシンセのような多重録音もできません。

最大4パートの演奏が可能

ではどうやってデモムービーのような演奏をしているのかというと、これはオートアルペジエイターとフレーズレコーディングを巧みに組み合わせることで実現しているのです。

リズムマシンはないと言いましたが、オートアルペジエイターの機能の一つとして実現しています。つまりドラムの音色とドラムのアルペジオパターンを選択した上で任意の鍵盤を押すとバックでドラムシーケンスが流れます。さらにアルペジオホールドボタンを押すと固定され、指を離してもドラムシーケンスが流れ続けます。この状態で別の音色を選ぶと、ドラムをバックにベースなどを演奏できるわけです。これだけでまず2パートです。

さらにその演奏をフレーズレコーディングすることができ、それを再生しながらまたアルペジオホールドを駆使することにより、もう2パートを重ねることができます。こうやって多重録音機能を持たなくても最大4パートの演奏ができるわけです。実際そこまでやるにはかなり高度なテクニックを要しますが、PSS-A50一台でどこまでできるかに挑戦している方もいるようです。

録音機能は貧弱

フレーズレコーディングができることがこの機種の売りであるわけですが、録音機能自体は非常に貧弱です。多重録音はもちろんのこと、複数のフレーズを録音することもできません。録音できるのはたった一つ、しかも一回だけです。もう一度録音すると上書きされて前に録音したものは消えます。

出先に持ち出して思いついたフレーズをストックしておきたいと考える人もいるでしょうけど、そういう使い方には向かないですね。まあ複数のフレーズを録音するにはどうしても操作が複雑になってしまうわけで、録音ボタンを押すだけで即録音ができるのは割り切った仕様とも言えますね。

ただ録音できる容量があまりにも小さいのが問題だと思います。容量は最大で約700音ということですから、1小節に16音使うとするとだいたい43小節くらいですね。ドラムシーケンスなどを使うとあっという間に消費してしまうでしょう。ですから1曲まるまる録音するということは無理で、Aメロ、Bメロ、サビのようなブロック単位で録音することしかできません。それか8小節くらいの循環コードをループ再生させ、それに合わせてアドリブで延々と演奏し続けることくらいですね。

もともとワークステーションシンセのように一台で完結させることは想定されておらず、DAWと連携して出来上がったフレーズをMIDI経由で流し込んでいくような使い方を想定しているのでしょう。それにしても700音というのはちょっと少なすぎる気がしますね。今どきメモリーなんて安いんですから、そんなケチらずにせめて10倍くらいは欲しかったところです。

レコーディングの終了タイミングが難しい

PSS-A50にはループ再生という機能があって、録音したフレーズをバックで循環させながら演奏することが可能なのですが、録音を止めるタイミングが非常にシビアで難しいです。オートパンチイン/パンチアウトのような機能は持ってませんから、マニュアルで止めるしかありません。

最後の小節の末尾で止めることができず、少しでも次の小節にかかってしまうと、ループ再生した際に1小節分の空白が開いてしまいます。これは実際やってみると非常に難しくて、たいがい失敗します。うまく行くまで何度もやり直しが必要ですね。

アルペジエイターや録音フレーズもMIDI出力可

この機種の最大の売りはMIDI接続が可能だということですね。通常のMIDIキーボードとしての使い方はもちろんですが、アルペジエイターで演奏したフレーズやレコーディングしたフレーズもそのままMIDIデータとして取り込むことができます。つまりアルペジエイター付きのMIDIキーボードとして活用したり、フレーズメモをDAWに流し込んでストックしておくことも可能なわけです。

トランスポーズ/オクターブシフトができる

カシオSA-46の不満点として、トランスポーズ(移調)ができないことがよく挙げられています。トランスポーズは歌の伴奏をしたり、耳コピに利用する際に便利な機能ですが、それができないことを最大の欠点という人も少なくありません。しかしPSS-A50はその点はぬかりなく、しっかりできます。しかもSHIFTボタンと鍵盤を同時に押すだけですから、操作もシンプルです。

さらにはオクターブシフトも専用のボタンで可能なので、これを駆使すればミニキーボードとは信じられないような広音域でのピアノ演奏が可能で、あっと驚かせることもできるでしょう。

タッチレスポンスは微妙

PSS-A50はこの手のミニキーボードには珍しくタッチレスポンス(ベロシティー)に対応しています。もちろんSA-46にはありません。ただタッチレスポンスが必要な音色って、せいぜいピアノくらいですよね。でもペダルも使えないし、ピアノとして使うにはあまりにも表現力が乏しすぎます。むしろその他の音色はタッチレスポンスがない方が好都合です。設定で無効にすることもできるのですが、絶対必要な機能かといえばそうでもないような気がします。

PSS-E30との違い

PSS-A50にはPSS-E30という姉妹機種が存在します。こちらはRemieという愛称が付いており、明らかに子供向けの製品で、実売価格は7,700円程度です。

PSS-A50に興味のある人からすれば全く眼中にないかもしれませんが、実は使い方によってはこちらの方が向いているということもあります。というのは、PSS-A50にはない自動伴奏機能を持っているからです。一般的なポータブルキーボードでおなじみのように、左手でコードを押さえるとそれに応じた伴奏が流れ、それをバックに右手でメロディーを演奏することができます。これと同じことはPSS-A50ではできません。

音色数は49とPSS-A50より若干多く、伴奏のスタイルは全部で28種類搭載しています。一般的な音楽ジャンルで使われる実用的な音色やスタイルを搭載しているので、これだけで結構楽しめそうです。MIDI入出力こそないですが、単体でバンドアンサンブル的なことをやりたい人にはこちらの方が向いていると思います。見た目が子供っぽいと敬遠する向きもありますが、中身は結構本格派ですよ。大人が使っても満足できると思います。

音源がPSS-A50と同じなのかはわかりませんが、サンプルを聴く限りは同等と思えますね。鍵盤も同じものですし、電源方式も同じですから、価格差を考えるとかなりお買い得とも考えられます。

SA-46/SA-76と比べてどうか?

カシオの両機種と比べての明らかなアドバンテージは、鍵盤が良いこと、音質が多少マシなこと、USB電源が使えること、MIDI入出力ができることの4つだと思います。値段が高いのですから当然ですが、逆に値段だけの価値があるかというと、それは人によると思います。

というのは、MIDI入出力やレコーディング機能が不要で、単純に弾いて遊びたいだけであればSA-46の方が向いているということもあります。PSS-A50は42音色なのに対し、SA-46は100音色も搭載しています。それにリズムもPSS-A50は22種類しかありませんが、SA-46は50種類搭載しています。もちろん音質はそれなりですが、バリエーションの豊富さという点ではSA-46の方に軍配が上がります。他にもSA-46にはドラムパッドという機能もありますしね、いろいろと遊べる要素が詰まっています。それでいて値段が全然違うのですから、最後はやっぱり音質と高度な機能が必要かどうかで決めるべきと思います。

PSS-A50はクリエイター向き

ちょっと辛口の評価になりますが、PSS-A50って人気の割にはあまり使い途がないような気がしています。単体で演奏するには鍵盤数が物足りないし、ワークステーション的に一台で音楽を完成させられるわけでもありません。これはあくまでもDAWと組み合わせて「音源付きMIDIキーボード」として使うのが最も真価を発揮できるのだろうと思います。そういう意味ではクリエイター向きと言えますし、目的がはっきりした人が買うべき機種だと思います。良くも悪くもオートアルペジエイターとフレーズレコーディングを使いこなせる人でないと宝の持ち腐れになりそうです。

そうではなくて手軽に自動伴奏を楽しみたいのであればPSS-E30の方が向いてますし、もっと割り切って単純に音が出せればいいというのであればカシオのSA-46でも十分ですね。何と言っても値段が3分の1以下ですからね、コストパフォーマンスは抜群です。

もちろんPSS-A50は悪い機種ではないのですが、本当にその機能が必要かどうかはもう一度考えた方がいいと思います。そういう自分も結局使いこなせなくて使い途を思いつかないくらいですから(笑)。

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