演奏用としてのピアノ音源を考える

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電子ピアノに内蔵されているピアノ音色は基本的には変えられないものです。機種によってはいくつかのバリエーションがあったり、音色を変化させることも可能ですが、それでも元々持っているピアノの音より良くなることはありません。

もっと良い音色が欲しければ電子ピアノ自体を買い換えるのも一つの方法ですが、大型楽器ですからそう簡単に買い換えるわけにもいきません。そこで提唱するのが、DTM用として市販されているソフトウェアのピアノ音源を使うという方法です。ほとんどの電子ピアノにはMIDI端子あるいはUSB端子が装備されていますから、PCと接続してピアノ音源から音を出すことが可能です。ソフトウェアですからいくら買っても場所を取りませんし、価格も数千円~数万円程度とそんなに高いものではないので気軽に試すことができます。

電子ピアノに比べてピアノ音源が優れている点は、メモリを贅沢に使えるということに尽きます。一般的に言えば、音色が豊かで細かいニュアンスまで再現できる可能性が高いということです。現在のPCM音源というものはメモリに録音した音を再生しているわけですから、メモリ容量が大きいほど情報量が多く、よりアコースティックピアノに近い音を出せるというわけです。こればっかりはどんな高級電子ピアノであってもPCには敵いません。最近ではDTM用としてはソフトシンセが主流となり、ハードシンセがほとんど使われなくなった理由もそういうことです。

ただ私もすでに8種類ほどピアノ音源を持っていますが、どれを使っても本当に気に入った音にはまだ出会えていないことも事実です。もちろん購入前にはサンプルを聴いたりして確かめているのですが、実際に弾いてみるといまいちだったりして期待外れなことも多いのです。そのくらいピアノ音源選びは難しいです。だから何度も買ってしまうのですが(笑)。

私がいくつもピアノ音源を購入した経験から、電子ピアノとの違いというものもわかってきました。良い面もあれば悪い面もあります。それで結局は電子ピアノに戻ってきたりもするのですね(笑)。こういうことはこれまであまり語られなかったと思いますが、私自身の経験からピアノ音源を使うことのメリットとデメリットについて考察してみたいと思います。

演奏用としてピアノ音源を使う理由

DAWのプラグインとして市販されているピアノ音源は主にDTM用途、つまり打ち込みで使われることが多いのですが、ここではそういう用途は考えません。あくまでも電子ピアノの代替として演奏用に使う場合に限定して考えます。電子ピアノの内蔵音源ではなくPC用のピアノ音源を使う理由としては次のようなものがあると思います。

より良い音が欲しい

電子ピアノを購入する時にはもちろん音色の良し悪しを十分吟味して選んでいると思いますが、それでも長く使っていると欲が出てくるものです。もうちょっときらびやかな音が欲しいとか、柔らかい音が欲しいといった感じですね。やっぱり音が良くないと弾いていて気持ちよくないんですよね。それは自分の耳が肥えてきたからとも言えるのですが、電子ピアノもデジタル製品ですから進歩が早く、古くなったものはどうしても最新の機種に比べて音が見劣りしてしまいます。そうなると普通はピアノ自体を買い換えるしかなくなります。

しかし、そういう時こそ検討すべきなのがピアノ音源の活用です。いくら電子ピアノが古くなっても鍵盤が壊れていない限り、MIDIキーボードとしては使えます。PCに接続して最新のピアノ音源を導入すれば、いつでも最新のリッチな音に生まれ変わらせることが可能なのです。

一般的な電子ピアノは波形のメモリ容量がせいぜい数十MB~数百MB程度しかありませんが、PC用のピアノ音源だと最大で数十GBもの容量を持ったものが存在します。桁が2つ以上違うわけです。メモリ容量が大きいと何が良いかというと、それだけ音の表情が豊かになるということですね。

飽きる

どんなに良質な音だったとしても、毎日弾いているとやはり飽きてきます。電子ピアノはアコースティックピアノのようにタッチによって音が変わるということがありませんから、誰がどのように弾いても同じ音しか出ません。それが面白くなくて必然的に飽きます。もちろん機種によっては何種類かバリエーションがあったり、音色のエディットができる場合もありますが、それにも限界がありますし、気に入った音色って結局一つしかないんですよね。

内蔵音源の音に飽きてきたら気分転換の意味で別の音色で弾いてみたいということはありますね。また曲によって音色を使い分けたいということもあるでしょう。そんな時こそピアノ音源の活用が最適です。

同時発音数が足りない

最近の電子ピアノは最大同時発音数が192音や256音もあることは珍しくないのであまり問題にならなくなっていますが、少し古い機種だと32音くらいしかないこともあります。それで何が問題かというと、ペダルを踏んで弾いたときに始めの音が順番に消えてしまうという問題があります。そんなのはクラシックの高度な曲くらいでしか起こりませんが、音切れはすごく気になります。これはアコースティックピアノでは絶対に起こらない現象なので重大な問題と言えます。

PC用のピアノ音源なら最大同時発音数はPCの性能にのみ依存ということが多いので、最大で512音とか1024音に増やすことも原理的には可能です。まあ実際にそこまでは必要ないと思いますが。

レコーディングしたい

演奏を録音するにはもちろんピアノからの出力をそのまま録音しても良いのですが、音声として録音してしまうと後から編集のしようがありません。しかしMIDIデータとして録音するのであれば、たとえミスタッチがあっても後から修正することが可能です。またMIDIデータさえあれば後から音源を差し替えていくらでもバリエーションを作ることができるので、曲に合わせて最適な音を作り出すことも可能でしょう。より完成度の高いレコーディングができることは間違いありません。

ピアノ音源のメリット

88鍵サンプリング

10万円未満の電子ピアノはたいてい88鍵すべての音をサンプリングしているわけではなく、だいたい鍵盤2~3個ごとに一つのサンプリングを行い、他はピッチを変えるだけで対応しているものが多いです。もちろん高級なものだと88鍵サンプリングということもありますが。

それに対してPC用のピアノ音源ではメモリが贅沢に使えるため88鍵すべてについてサンプリングすることが一般的です。88鍵サンプリングだと何が良いかと言いますと、複数の鍵盤に一つのサンプルを使い回していないので音域によって突然音質が変わるような問題を避けられるからです。もっともそれはよほど耳の良い人にしか聞き分けられないレベルなので、実用上はそれほど気にすることでもないと思います。

打鍵の強さによる音色変化が細かい

ピアノという楽器は打鍵の強弱によって音量だけでなく音色も変化します。弱く弾くと柔らかく、強く弾くと鋭い音になりますね。だからこそピアニストのタッチによって独自の個性が出せるわけです。しかし電子ピアノの場合は容量に制約があるので、無限に細かく弾き分けることは不可能です。10万円未満の電子ピアノの場合、強弱によるサンプリングはだいたい4段階くらいしかないことが多く、それ以上細かいタッチの差は出せません。もちろん高級機になるともう少し段階数も増えますが、それでも何十段階にも分けることはメモリ容量の限界から言っても不可能です。

しかしPC用のピアノ音源ならメモリ容量に余裕があるため、最大で20段階もサンプリングを行っているものが存在します。そこまで行くとほぼ無段階に近いと言ってもいいでしょう。88鍵のすべてについて20段階のサンプリングを行うわけですから、その容量は膨大なものになることがおわかりでしょう。まさに数十GBクラス、PCだからこそ可能な超絶スペックです。

音色の時間変化が豊か

ピアノの音をよく聴いていると、打鍵してから消えるまでの間に音が唸りのように次第に変化していくことがわかります。それがアコースティックピアノの豊かな響きを生み出しているわけですが、安価な電子ピアノでは打鍵した後、だいたい3秒くらいで音が一定になり、それ以上変化しなくなります。つまりそれ以上は同じ音を繰り返し再生しているだけなのです。こういう仕組みをループと呼びますが、ループの長さとメモリ容量は比例するため、安価な電子ピアノではループが短く設定されます。一方、高級な電子ピアノではループも比較的長く設定されるため、よりアコースティックピアノに近い豊かな響きが得られます。実は廉価機と高級機の最も大きな違いは、このループの長さにあると言って間違いありません。こればっかりは値段の差がはっきりと現れる部分です。

ピアノ音源でもループの長さは様々ですが、やはり価格の高いものほど大容量のデータを使っているため、ループは長くなる傾向があります。最も長いものだと2分というものもあります。さすがにそこまで長く音を伸ばすことはないのでオーバースペックな気がしますが、アコースティックピアノの音を出音から消音まで余すところなく録音したわけですから、完全なアコースティックピアノの再現だと言えます。電子ピアノではいくら高級機でもメモリ容量に限界がありますから、そこまで長いループを持ったものはありません。やはり圧倒的にピアノ音源が有利だと言えるでしょう。

レゾナンスやノイズを追加できる

ピアノというのは実は弦楽器でもあるので、一つの音を弾いても周りの弦が共鳴し合って複雑な響きを作り出します。特にペダルを踏んだときにはすべての弦が開放されているため、より顕著になります。これらの共鳴をストリングレゾナンスやダンパーレゾナンスと呼んでいますが、少し高級な電子ピアノになるとそれをシミュレーションする機能が搭載されていることがあります。

また打鍵した時やペダルを踏んだ時には少なからずメカノイズが発生します。PC用のピアノ音源の中にはこれらのノイズを自由に追加することができるものがあります。わざわざノイズを加えるというのは変な気がしますが、アコースティックピアノで必ず発生するノイズがあってこそよりリアル感が強まるのです。

最近の電子ピアノは高機能になっているのでこういったレゾナンスやノイズも再現するものがありますが、やはりピアノ音源の方がより細かく設定できるため、好みに合わせて音を作り込める利点があります。

エフェクトが豊富

音に残響を付けるリバーブはたいていの電子ピアノにも搭載されていますが、それほど細かい設定はできません。ピアノ音源の場合はもっと柔軟性が高く、空間の広さや残響の長さ、ホールの種類といった細かいパラメータを自由に設定することができ、あたかもコンサートホールで弾いているような気分を味わうことができます。

ピアノ音源のデメリット

電子ピアノに比べてPC用のピアノ音源は良い面ばかりが強調されがちですが、もちろんそれだけでなく悪い面もあります。これまであまり取り上げられなかった気がしますが、自分自身がピアノ音源を使い続けて気付いた欠点には以下のようなものがあります。

準備に手間がかかる

これはほとんどの人が思っている最大のデメリットでしょう。電子ピアノなら電源を入れるだけですぐに演奏できますが、ピアノ音源だとまずPCを立ち上げて、ソフトを立ち上げて、音色の設定ファイルを読み込み、さらにスピーカーをセットするという手間がかかります。これだけで演奏意欲を削がれることも結構あるでしょう。

ただ普段からDTM環境を構築している人であればPCは常に立ち上がっているでしょうし、スピーカーのセッティングも済んでいるはずです。あとはソフトを立ち上げて設定ファイルを読み込むだけですから、それほど大した手間ではないと思います。

タッチの反応が最適でない

サンプルの音源を聴いたときは良いと思ったのに、実際に弾いてみると「あれっ、何か違う」と感じることはよくあります。これは何が問題かと言うと、電子ピアノから出力されるベロシティー(打鍵の強さ)が音源と合っていないからです。どんな音源でも最も良く鳴るベロシティーの領域というものがあって、そこから外れると本来の性能を発揮できないのです。一般的には小さくてこもった音になりがちです。つまりベロシティーが低すぎるので思いっきり強く弾かないとメリハリのある音が出ないことが多いです。

打ち込みならベロシティーを自由に編集できるのでこういう問題は起こりません。演奏時だけに起こる問題と言えるでしょう。打鍵したときのベロシティーの出方はメーカーによってまちまちなので、音源に合わせてやる必要があります。こういう場合、送信側である電子ピアノのベロシティーカーブを変更するか、受信側である音源のベロシティーカーブを変更するかのいずれかで調整します。できれば電子ピアノ側はいじりたくないので、音源側で細かく調整できるものが望ましいでしょう。

音域によるバランスが最適でない

これもピアノ音源でよくある問題ですが、音域ごとの音量バランスが必ずしも最適ではありません。特に低音側が強く出過ぎて高音が弱々しいことはよくあります。こういう場合はメロディーをはっきり浮き出させるためにあえて低音部を弱く弾く必要があり、演奏が困難になってしまいます。これも電子ピアノとの相性があるでしょうね。

こういう場合、音源側で音域ごとの音量バランス(キーボードトラッキング)を調整する機能があれば最適化することができます。ただ残念ながら、キーボードトラッキングの調整ができる音源はそれほど多くはありません。

ハーフペダルが効かないものが多い

最近の電子ピアノはハーフペダルと言って、ペダルを踏み込む深さによって連続的に効果が変わるようになっているものがほとんどです。この機能はクラシックの微妙な表現には欠かせないのでほぼ必須と思っていいくらいです。

ただPC用のピアノ音源ではハーフペダルに対応したものがあまりないのが実状です。以前からMIDI信号としてはハーフペダルが効いているはずなのになぜかピアノ音源では反映されないことを不思議に思っていましたが、実はピアノ音源自体がハーフペダルに対応してないとダメなのですね。

ある程度高価な音源になるとハーフペダル対応は当たり前ですが、安価な音源には対応していないものが多いです。自分が持っている音源でも対応しているのは一つしかありませんでした。

ペダルの反応が悪い

これはもしかすると自分の環境だけなのかもしれませんが、ペダルを踏むタイミングによっては全くペダルが効かず音が途切れてしまうことが頻繁に起こります。ハーフペダル非対応だと特に起こりやすいです。

この原因はおそらくMIDI信号がPCに伝わるまでにタイムラグがあるため、鍵盤を離すタイミングとペダルを踏むタイミングがわずかに遅れると音が途切れてしまうのではないかと思っています。こういうことは電子ピアノでは全く起こりません。これも打ち込みなら問題にならないですが、演奏上は非常に気になるので、あまりピアノ音源を使いたくない理由の一つになります。

音飛びが起こる場合がある

これも自分の環境だけかもしれませんが、音飛びが発生してプツプツというノイズが入ることがあります。特にペダルを踏んで多くの音を鳴らした時に起きやすいです。まあPCの性能が非力だからなんですが(笑)、大容量データを持った音源ほど処理が重くなるのでこの問題は起きやすくなります。ですからPCもできるだけ最新スペックを維持し続ける必要がありますね。

鍵盤のタッチを生かし切れない

電子ピアノからMIDI信号として送れる情報はベロシティーとペダルというたった2つしかありません。すべてのピアノ音源はこの2つのデータを受信することにより発音したり音に変化を付けたりしているわけです。

しかし鍵盤のタッチにはもっと別の要素があって、たとえば鍵盤を離す速さというのもあります。少し高級な電子ピアノだと鍵盤を離す速さを感知して、音の余韻に変化を付けているものがあります。実はMIDI規格にもノートオフベロシティーというものがあって、規格上は鍵盤を離す速さをデータとして送れることになっているのですが、実際にはこれを送信できるキーボードというものはほぼ存在しません。ですから音源側でもノートオフベロシティーには対応しておらず、再現することは不可能なのです。専用に設計された電子ピアノだからこそ可能なんですね。

ピアノ音源を選ぶ際のポイント

演奏用としてピアノ音源を使うことにはデメリットも存在することを踏まえた上で、どんな音源を選ぶのが良いか考えてみましょう。決してスペックやサンプル音源だけにとらわれないことが大事です。

容量はあまり大きすぎない方が良い

リアルな表現力を追求するほどデータ容量は大きくなり、最高で数十GBにも達するものがあります。しかしあまり容量が大きいとデータを読み込むのに時間がかかります。データのロードだけで数分も待たされるようだと演奏意欲も削がれてしまいます。そのクラスになると最低限SSDなどの高速記憶媒体を使わないと厳しいでしょう。

ですから容量は大きくても10GB台までに抑えた方が実用的です。88鍵サンプリングには必ずしもこだわらなくていいと思います。そのくらいなら普通のHDDでも1分以内に読み込みが終わりますから、さほどストレスは感じません。

ハーフペダルが効くかどうか?

私の経験から言うと、少し古い音源や安価な音源ではハーフペダルに対応したものがほとんどありません。ポピュラーピアノなら別になくても構わないかもしれませんが、クラシックピアノには必須の機能なので対応状況をしっかり確認しておきましょう。

音色のエディットが細かくできるかどうか?

上で述べましたように、電子ピアノと音源との相性によってはデフォルト状態で必ずしもベストな設定にならないことが往々にしてあります。そういう場合、音源側である程度調整が効かないとどうしようもなくなります。最低限、ベロシティーカーブとキーボードトラッキングの調整に対応したものを選ぶべきです。

やっぱり電子ピアノが最高かも?

私自身いろんなピアノ音源を使ってみましたが、結局のところすぐ使わなくなって電子ピアノに戻ってくることも多いです(笑)。音飛び問題もありますし、やっぱりバランスが悪いんですよね。確かに音色は豊かですが、しょせん練習ですからそこまでする必要があるのかなという気もします。

その点、電子ピアノというのはハードウェアと一体で設計されたものですから、タッチやペダルに対する反応性、音域ごとの音量バランスが非常に優れています。やはりバランスの良さはさすがだなと思います。もちろん電源を入れてすぐ弾ける手軽さは言うまでもありません。

そういう意味では電子ピアノもある程度良いものを買っておいた方がいいのかなと思います。ただ電子ピアノの音ってどうしても飽きちゃうので、できるだけ音色のバリエーションが多い機種を選んだ方がいいと思います。バリエーションと言っても単に音の明るさを変えただけのものが多いですが、中にはメーカーの異なるピアノを複数サンプリングしたものがあって、そういうものを選べば気分転換や曲による使い分けもしやすいでしょう。それからベロシティーカーブやブリリアンス(音の明るさ)などを細かくエディットできる方が自分好みの音作りをしやすくなります。電子ピアノでもできるだけカスタマイズ性の高いものを選ぶことが長年飽きずに使える秘訣だと言えるでしょう。

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