【第5回】コードの仕組み

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いよいよ作曲や演奏をする上で中心的な役割を果たすコードについて見ていきましょう。今回はまずコードというものの概念とコードネームの仕組みについて解説します。

コードとは

音楽理論で言うコード(和音)とは音を3度間隔で最低3つ以上積み重ねたものと定義しています。英語で書くとcodeでもcordでもなく、chordですので間違えないようにして下さい。

3度間隔には長3度と短3度の場合があり、その組み合わせによっていろいろなパターンが出現します。なお例外的に間隔が完全4度となるケースも一部にはあります。

音楽を絵に例えると

コードについて理解を深める上で、音楽というものを絵に例えてみるとわかりやすいでしょう。音楽にはリズム、メロディー、ハーモニーの三要素が存在すると言われます。これを絵に例えてみますと、リズムはキャンバス、メロディーは輪郭、ハーモニーは色みたいなものでしょうか。

キャンバスがなければ絵が描けないように、音楽にとってリズムは絶対に欠かせない要素であり、音楽を支える土台であると言えます。メロディーはキャンバスの上に鉛筆で描いた輪郭のようなものをイメージして下さい。一応、輪郭さえあれば絵としては成立しますが、やはり味気ないですよね? それと同じでメロディーだけの音楽というのは物足りないものです。そこで輪郭に色を着けるものがハーモニーであり、具体的にはコードであると思って下さい。輪郭に色を着けることによって絵が生き生きとした表現力を持ってくるのと同じように、メロディーをコードで彩ることによって音楽にも表情が生まれてきます。

また輪郭が同じであっても色の着け方によって雰囲気ががらっと変わるように、音楽もメロディーが同じであってもコードの付け方によって雰囲気はいくらでも変えることができます。それがコードワークの醍醐味であるとも言えます。

コードネームが生まれた背景

コードという概念はモーツァルトの時代からすでに存在したわけですが、クラシックとポピュラーミュージックではコードに対する考え方が大きく異なります。

クラシックではすべてのパートが対等であり、それぞれが独立して動きながら一つのハーモニーを生み出すという考え方で作られています。交響曲などを聴けば複数の旋律が複雑に絡み合いながら美しいハーモニーを生み出していることがわかるでしょう。このような音楽の構造をポリフォニーと呼び、もともとは合唱曲から発展してきたものです。一般的な四部合唱ではソプラノ、アルト、テノール、バスという4つのパートがあり、それぞれが別々の旋律を歌うことによって一つのハーモニーが出来上がっているわけです。もちろん一音一音が何らかのコードにはなっているわけですが、メロディーと伴奏が明確に分離できないことが特徴です。

一方、われわれが今日聴いているようなポピュラーミュージックでは圧倒的にメロディーが主役であり、ハーモニーは引き立て役という考え方に立っています。それは歌モノを考えれば自明でしょう。つまりポピュラーミュージックではメロディーというものが中心にあって、コードは背景に流れる伴奏として捉えられているのです。このようにメロディーとコードの主従関係がはっきりしている音楽のことをホモフォニーと呼びます。

クラシック音楽ではメロディーと伴奏を区別して考えなかったため、コードネームというものはまだ存在しませんでした。ですからクラシックの楽譜にはコードネームが付いていません。コードネームが発明されたのは20世紀以降のことです。ポピュラーミュージックのように「メロディー+伴奏」という音楽形式を簡潔に表したいという要求から生まれてきたものがコードネームなのです。

コードネームの利便性

クラシックの楽譜にはコードネームが付いていない代わりに、たとえピアノ独奏であっても弾く音すべてが楽譜に忠実に記されています。つまりコードネームというものがないので全部の音をいちいち書くしかないのです。その場合、演奏者は一音一音、楽譜通りにきっちり弾くことを要求されるわけです。

もちろんポピュラーミュージックでもピアノ独奏用に編曲された楽譜はありますが、コードネームというものが発明されたおかげでメロディーとコードネームだけでも楽譜として成立するようになりました。このような楽譜を特にリードシートと読んでいますが、ジャズの世界では普通に用いられるものです。その場合、演奏者はコードネームを頼りに自分で自由にアレンジして演奏することになります。つまりコードネームはあくまでも手引きであり、どのように弾くかは演奏者に委ねられているわけです。

もっと極端な例では、ギター弾き語り用のコード譜に見られるように、歌詞の上にコードを書いただけのものも見られます。初めからメロディーを知っていれば、これだけでも楽譜として成立してしまうわけです。余計な情報がない分、歌に集中できるメリットがあると言えます。

またクラシックの場合は編曲も作曲者自身が行うことが普通でしたが、今日のポピュラーミュージックでは職種が細分化され、作詞家、作曲家、編曲家などが協調して作品を仕上げることが一般的になっています。作曲家といえば、普通はメロディーだけを作るのが仕事で、アレンジは専門の編曲家に任せるのが一般的です。その場合、作曲家自身がメロディーにコードネームを付けておけば、おおよそのイメージを編曲家に正確に伝えられるというメリットがあります。それを受け取った編曲家はコードネームをもとに音に置き換えるアレンジ作業を進めていけばよいわけです。

このようにコードネームというものを利用することによって、コードをいちいち書く手間が省け、楽譜をメロディーとコードネームという簡潔な形に表すことが可能になります。つまりコードネームはコードそのものではありませんが、コードの構造を抽象的に表してくれる便利な記号なのです。

三和音と四和音

初めにコードとは音を3度間隔で3つ以上積み重ねたものと述べましたが、3個からなる和音がコードの最小単位となります。2個では和音とは呼びません。3個からなる和音のことを三和音あるいはトライアドと呼びます。

また4個からなる和音は四和音と呼びます。もちろん5個以上の和音というのもあり得ますが、後にテンションのところで扱いますのでここでは述べません。

実はクラシックの世界では四声体という考え方があって、合唱曲ならソプラノ・アルト・テノール・バス、弦楽四重奏曲なら第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロというように4つのパートでハーモニーを構成するのが基本になっています。ですから和音の音数は最大で4個とするのが都合が良いのです。

三和音と四和音についてはどちらが良いというわけではなく、臨機応変に使い分けます。コードは色に例えられると言いましたが、色で言えば三和音は原色、四和音は中間色であると言えます。絵の具の原色どうしを混ぜ合わせることによって中間色が生まれるように、コードも三和音にもう1音足すことによって中間的な響きを出すことができます。

一般的に言って、三和音は混じり気のない純粋な響きであり、力強さや素朴さを表現するのに向いています。一方、四和音はやや濁った曖昧な響きであり、お洒落で洗練された雰囲気を出すのに適しています。このように三和音か四和音かは曲の雰囲気、シチュエーションによって適宜使い分ければ良いということになります。

コードの構造

それでは具体的なコードについて見ていきましょう。ここでは例として四和音のCメジャーセブンを取り上げますが、もちろん三和音でも考え方は同じです。

Cメジャーセブンというコードはド・ミ・ソ・シという4音から構成されています。コードの構成音にはそれぞれ次のような呼び名があります。

根音

コードの一番下にある音を根音またはルートと呼びます。これはコードを下から支え、コードの基本的な性格を決める重要な音です。ここではCを根音としましたが、もちろん12音すべてを根音とすることができます。

第3音

根音から見て3度に当たる音を第3音と呼びます。第3音が長3度の場合は明るい響きでメジャーコード、短3度の場合は暗い響きでマイナーコードとなります。このように第3音はメジャーかマイナーかを決定付けるきわめて重要な音と言えます。

第5音

根音から見て5度に当たる音を第5音と呼びます。通常は完全5度ですが、減5度や増5度となるケースもあります。完全5度は根音と協和性が高いため、省略しても影響が少ない音とされています。ただし減5度や増5度の場合はその音自体に特徴があるため、省略することはできません。

第7音

根音から見て7度に当たる音を第7音と呼びます。当然、三和音の場合にはありません。これも長7度と短7度の場合があります。コードの基本的な性格は根音・第3音・第5音からなるトライアドによって決まります。第7音はトライアドに追加される形になるため、付加音と呼ぶことがあります。基本的には「飾り」みたいなもので、あってもなくてもコードの基本的な性格には影響を与えないものです。ただし後で述べるドミナント7thコードの場合にはコードの機能にとって欠かせない音なので、付加音としては扱いません。

また付加音として7度ではなく長6度が付く場合もありますが、ここでは第7音の一つとして扱います。短6度は増5度と結果的に同じになってしまいますから存在しません。

各音の略号

コード構成音の略号は本によっていろいろな書き方がありますが、本講座では次の形に統一するものとします。

根音はRと表記します。

第3音が長3度の場合はM3、短3度の場合はm3と表記します。例外的に完全4度となる場合は単に4と表記します。

第5音が完全5度の場合は自明なので単に5と表記します。減5度の場合は♭5、増5度の場合は#5と表記します。

第7音が長7度の場合はM7、短7度の場合はm7と表記します。長6度の場合は単に6と表記します。また減7度は結果的に長6度と同じになりますが、区別するため♭♭7のようにダブルフラットを付けて表記します。

例として、上のCメジャーセブンは第3音が長3度、第5音が完全5度、第7音が長7度ですから、構成音を書くと下のようになります。

Cメジャーセブン:R, M3, 5, M7

もちろん12音すべてを根音にすることができますから、C以外の音を根音にした場合も同じ要領でコードを作れます。コードの構造自体は変わりませんから、根音からの音程関係を保ったまま平行移動するだけのことです。

コードネームの仕組み

コードネームというものは一見複雑そうに見えますが、実はちゃんとした規則があります。それを知っていれば難しいことはありません。コードネームは下の図に示すように、「箱」が4つあると考えればわかりやすくなります。

根音

左の大きな箱は根音を英語名で表します。たとえばCと書いてあればドが根音、Aと書いてあればラが根音ということです。すべてはこの音が基準になります。

根音に臨時記号が付く場合は、音名の右肩に臨時記号を付けてこの箱の中に入れます。

第3音

根音の右下にやや小さく書かれるのが第3音を表します。第3音が長3度である場合は何も書きません。一方、短3度である場合は小文字のmを付けます。

この音はコードの性格を決める非常に重要な音で、長3度であればメジャーコード、短3度であればマイナーコードと呼ばれます。つまりmが付いてればマイナーコード、何も付いていなければメジャーコードであることが一目でわかります。

第7音

四和音の場合に限り、第7音を第3音の右横に付けます。第3音が長3度の場合は何も書かないので、第7音だけが付くことになります。

第7音には長7度と短7度の場合があり、長7度は大文字のM7、短7度は数字の7だけを付けます。楽譜によってはM7をmaj7と書いたり、△7と書くこともあります。

ここが初心者にはものすごく間違えやすいポイントなので注意して下さい。たとえばAm7(Aマイナーセブン)と書いてあった場合、第7音は短7度となります。しかし、このmは短3度を表すのであって、m7のように7度の前に付くわけではありません。あくまでも短3度を表すmと短7度を表す7が一緒に付いているということですので誤解のないようにして下さい。

また第7音として7度の代わりに長6度が付く場合は数字の6を付けます。

第5音

第3音や第7音よりも上に小さく書かれるのが第5音を表します。コードの第5音はほとんどの場合、完全5度であるため、通常は何も書きません。何も書いていなければ完全5度ということです。

しかし第5音が半音下がって減5度になったり、半音上がって増5度に変化した特殊なコードも存在します。その場合に限り、この箱の中に5度音を記述します。減5度の場合は♭5、もしくは楽譜によっては-5と書かれることもあります。また増5度の場合は#5、あるいは+5のように書かれます。実際の楽譜では(♭5)のように括弧付きで書かれることが一般的です。

また第5音以外に9度以上のテンションが書かれることもありますが、それは後に説明します。

コードネームを読む

以上でコードネームの仕組みについて解説しました。規則を覚えれば非常に単純であることがわかるでしょう。ちょっと練習としてコードの読み方と構成音を考えてみましょう。

コードネーム 読み方 構成音
C Cメジャー R, M3, 5
Am Aマイナー R, m3, 5
FM7 Fメジャーセブン R, M3, 5, M7
Dm7 Dマイナーセブン R, m3, 5, m7
G7 Gセブン R, M3, 5, m7
EmM7 Eマイナーメジャーセブン R, m3, 5, M7
Bm7(♭5) Bマイナーセブンフラットファイブ R, m3, ♭5, m7

コードの読み方は人によっていろいろあるので、これ以外の読み方をする場合もあります(たとえばセブンをセブンスと読むなど)。

なお、ここで説明した以外にもdim, aug, sus4などが付く特殊なコードがありますが、それはまた後で説明します。

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