2022年版・電子ピアノの選び方

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この記事は2018年版として書かれたものですが、その後新しい機種がいくつか発売されたため内容を改訂し、2022年版として再構成しました。

ピアノという楽器は考えてみるとちょっと特殊ですね。ピアノが趣味だと言っても、本物のピアノ(アコースティックピアノ)を持っている人はそんなに多くないのではと思います。むしろ電子ピアノ(デジタルピアノ)を使っている人の割合の方が高いのではないでしょうか? 実は僕も電子ピアノしか持っていません。

たとえばギターとかオカリナを始めるのであれば、本物の楽器を買うのは当たり前です。もちろんピンからキリまでありますが、そんなに高いものではないし、場所も取りませんから気軽に買うことができます。しかしピアノはそうは行きません。新品ならアップライトピアノでも50万円以上、グランドピアノになると最低100万円以上はします。子供さんであれば将来のために買い与えられることもあるのでしょうけど、大人が趣味で始めるのにいきなり本物のピアノを買うのはハードルが高すぎます。

仮に中古で安く買えたとしても問題は置き場所です。ピアノは重量物なので一軒家でも床の補強工事をしなければならない場合があります。ましてや賃貸では到底無理です。たとえ置けたとしても都会の住宅事情では大きな音で弾くことはできません。防音室を作るか、人里離れた山奥に住むしかないのです。ピアノを持つには価格・置き場所・騒音という三つの大きなハードルを乗り越えなければなりません。

もちろんアコースティックピアノと電子ピアノは全然違います。よくコンサートに行くことがありますが、本物のグランドピアノは和音を弾いたときの透明感とか音の伸びとか全然違うと思いますね。しょせん電子ピアノは模倣でしかなく、本物には到底敵いません。ですから将来プロの演奏家を目指すならばグランドピアノを持つべきだという人はいますし、否定はしません。

僕も子供の頃エレクトーンを習っていたときにピアノで練習させられたことがありますが、それ以来本物のピアノにはほとんど触ったことがありません。最近ピアノサークルに入って本物のピアノを弾く機会が増えましたが、電子ピアノに慣れているとタッチの違いでなかなか弾きづらいものです。でも現実問題として、ピアノを家に置けるほど恵まれた人はそうそういないと思います。ましてや続くかどうかわからない趣味のためにいきなり買えるような代物ではないでしょう。

そこで代替手段として電子ピアノを使うことになります。本物には到底敵いませんからあくまでも代替でしかないのですが、最近の電子ピアノはずいぶん進化しているので、タッチも音もかなり本物に近づいてきています。そこそこ良いものを買えば、本物のピアノを弾いたときにもそれほど違和感はありません。また電子ピアノならではのメリットもありますから、必ずしも悪い面ばかりではありません。電子ピアノを弾いてると変な癖が付くから絶対ダメだという否定的な人もいますが、僕は練習の手段としては十分ありだと思っています。騒音を気にして弾かないよりはたくさん弾いた方が良いに決まってますから。もし本物が弾きたくなったらレンタルスタジオを借りるなどすれば良いのです。電子ピアノがピアノ趣味人口の増加に貢献したことは間違いありません。

というわけで、ちょっとピアノを始めてみたいくらいの人には電子ピアノは強い味方になると思います。何を買ったらいいのか迷っている人のために電子ピアノ選びのポイントと、僕が楽器店で試奏した感想をもとに、2020年の時点でおすすめの機種について紹介したいと思います。

電子ピアノのメリット

音質もタッチも本物には敵わないのが電子ピアノですが、練習用と割り切れば電子ピアノならではのメリットもたくさんあります。むしろ音質とタッチ以外は全てがメリットであるとも言えます。

夜中でも弾ける

ヘッドホンでも練習できるのは最大のメリットと言えるでしょう。社会人の場合はどうしても夜しか時間が取れませんので、これは大きな武器になります。本物のピアノを持っている人でも、夜は電子ピアノを使って練習時間を確保する人もいるくらいです。

調律がいらない

当たり前ですが、電子ピアノは調律の必要が一切ありません。アコースティックピアノは温度や湿度によって調律が変わってしまうため、定期的に専門家に依頼して調律しなければなりません。そのための費用も馬鹿になりません。ずれた調律で弾いていると上達の妨げにもなります。

いろいろな音色が楽しめる

普通の電子ピアノには、ピアノの音色だけでなく、エレピやオルガンなど数十種類の音色が内蔵されています。たまには気分を変えて別の音色で弾いてみるのも楽しいでしょう。またリバーブなどのエフェクトも内蔵されていますので、ホールで弾いているような気分を味わうこともできます。

練習に便利な機能がある

リズムの練習に欠かせないメトロノームは必ず内蔵されていますし、機種によっては演奏の録音・再生ができるものもあります。こういうものを最大限活用すれば効率的に練習できて上達も早まるでしょう。

移調ができる

ほとんどの電子ピアノにはトランスポーズと言って、音のキーを変える機能が内蔵されています。他の楽器と合わせるにはピアノの方が移調する必要がありますが、キーが変わるとまた練習し直さなければなりません。でもトランスポーズ機能を使えば普段練習しているキーのままで他の楽器と合奏することができます。

録音が簡単

ちょっと弾けるようになったら演奏動画を撮ってYouTubeなどにアップしたいと思うこともあるでしょう。でもアコースティックピアノだとマイクを立てて録音しなければなりませんが、これはかなり難しく、良い音で録るには専門的な技術が要求されます。その点、電子ピアノだとライン出力から直接録音することができますので音質の劣化がなく、誰にでも簡単に録音できます。

安いキーボードを買ってはダメ!

ピアノを始めたいという人がよくやりがちなミスは、自動伴奏機能の付いたいわゆるポータブルキーボードを買ってしまうことです。安いものだと1万円台で売っています。すぐ飽きるかもしれないから安いのにしておこうとつい手を出したくなる気持ちはわかりますが、こういうのは絶対に買ってはいけません。

まず鍵盤の数が61鍵しかないのが普通なので、これでは弾ける曲が半分くらいに減ってしまいます。僕も昔は61鍵のシンセで練習していた時代がありましたが、鍵盤が足りない場合は諦めるか、オクターブずらして編曲するしかありません。それは76鍵でも同じでした。特にクラシックは広い音域を使うので、88鍵は絶対に必要です。技量が足りなくて弾けないのは仕方ありませんが、物理的に弾けないのは悔しいものです。

もう一つは、鍵盤のタッチが軽すぎてピアノとは全く違うことです。特に安いキーボードはタッチがフニャフニャでお話になりません。本物のピアノはタッチがかなり重いです。しかも鍵盤から離したときに反動で戻ってくる独特の動きをします。極端に安いものだとタッチレスポンスが付いてないので、鍵盤を強く弾いても弱く弾いても同じ音しか出ません。キーボードはピアノとは似て非なるものですので、あんなもので練習してもピアノの練習にはなりません。

初めにこういうものを買ってしまうとすぐに電子ピアノが欲しくなるに決まってますので、結局は無駄な出費となります。

ポータブル型と据置型

電子ピアノには大きく分けて二つのタイプがあり、ポータブル型と据置型があります。ポータブル型は鍵盤とスタンドが分離したもので、簡単に持ち運びできることが特徴です。通常はスタンドが別売となります。一方、据置型は鍵盤とスタンドが一体化したもので、大型のスピーカーとペダルを内蔵していることが特徴です。

ポータブル型の長所と短所

長所としては、まず比較的コンパクトなので場所を取らないということです。スタンドと分離できるので、万一弾かなくなったときも立てかけてしまっておくことができます。部屋間の移動も一人で可能です。また比較的軽量なのでライブなどで外へ持ち出すことも可能です。もしライブで使う可能性があるならばこのタイプにすべきでしょう。ただしいくら軽いとは言っても11kg以上はありますので、車がないと運ぶのは困難です。

短所としては、スタンドが華奢なためどうしても不安定になるということです。激しく弾くと揺れたりします。また本体スペースの関係上あまり大きなスピーカーを搭載することができないため、据置型に比べるとどうしても音量・音質ともに劣ることが多いです。ただしポータブル型でも外部のスピーカーを接続すればその欠点は解消されます。

据置型の長所と短所

長所は土台がしっかりしているのでポータブル型に比べて安定しているということです。鍵盤カバーも付いていますし、ペダルが本体に固定されているので安定感があります。最近のものは奥行きもスリムになっており、いったん設置してしまえばポータブル型とそんなに変わりません。また比較的大型のスピーカーを搭載できるため、ポータブル型に比べて音量や音質の面で優れています。

短所はいったん設置すると移動が簡単にできないということです。重量は軽いものでも35kgくらい、重量級になると80kgを超えますので、大人2人がかり、場合によっては3人がかりでないと動かせないでしょう。またポータブル型に比べて比較的高価であることもハードルが高いと言えるでしょう。

何をおいてもまずタッチ!

電子ピアノで一番大事なもの、それは「タッチ」です。これは声を大にして言います。いくら音質が良くてもタッチが悪ければそんなものは買うに値しません。電子ピアノはアコースティックピアノの代替だということを考えればこれは自明でしょう。タッチが本物に近くないとピアノの練習にはならないからです。

こればっかりは楽器店で試奏してみないとわからないので、自分で触って納得することをおすすめします。ただ経験的に言いますと、20万円以上のクラスになればどのメーカーでもそんなに悪いものはありません。しかし10万円以下のクラスではメーカーによってかなりバラツキがあります。タッチは人によって好みも分かれるので、自分のフィーリングに合ったものを選ぶしかありません。

なおタッチの強弱を変えられるものがありますが、これはあくまでも弾いたときの音の反応が変わるだけで、鍵盤そのものの重さが変わるわけではありませんので注意が必要です。

音質は二の次でいい

音質が良いに越したことはありませんが、タッチと音質の両方が気に入ることはなかなかありません。音質は気に入ったんだけど、タッチがいまいちと感じる場合は、迷わずタッチの気に入った方を選びましょう。

なぜかと言いますと、タッチは変えられないけど音質は後からどうにでもなるからです。特にポータブル型の場合、スピーカーは貧弱なものが多いので本体の音はあまり良くありません。しかしヘッドホンで聴いたり、外部のスピーカーを接続すると見違えるように良くなることもあります。また最近のソフトウェア音源はものすごく進化していますので、ほとんどの電子ピアノに付いているMIDI出力端子からPCに接続してやると超リアルな音質で演奏することも可能です。

今どきの電子ピアノであればどのメーカーも一定の水準は満たしていますから、機種によってそれほど大きな違いはありません。ですから音質についてはそれほど気にする必要はないと言えます。

メーカーごとの特徴

現在、国内ではヤマハ・カワイ・コルグ・ローランド・カシオが電子ピアノを販売しています。メーカーによってタッチの癖のようなものがありますので、自分が試奏した感想を述べてみたいと思います。

ヤマハ

さすが楽器のトップメーカーだけあって据置型からポータブル型までラインナップは充実しています。概ね20万円以上のクラスがClavinova、10万円クラスがARIUS、ポータブル型はPシリーズというラインナップになっています。特徴としては、GH3鍵盤のタッチが非常に良いです。Clavinovaの高級機になると木製鍵盤を使用し、跳ね返るときの感触もかなり本物に近いものがあります。廉価版のGHS鍵盤になると少し落ちますが、それでも普通に練習する分には十分な性能です。

カワイ

ピアノの老舗メーカーだけあって、据置型が主力のラインナップになっています。木製鍵盤を使用するなど独自のこだわりがあり、やや重めのタッチは本物にかなり近いものがあります。本物の質感を求めるなら有力な選択肢だと思いますが、価格的には20万円以上になるので予算と相談です。樹脂鍵盤でも良ければ10万円少々で購入が可能です。最廉価のエントリーモデルでも鍵盤は非常にしっかりしていますので、音色さえ気に入れば検討に値すると思います。

コルグ

電子楽器専門のメーカーで、据置型からポータブル型まで幅広くラインナップしています。比較的リーズナブルな価格でコンパクトなモデルが多いことも特徴です。独自のRH3鍵盤はやや重めのタッチですが、とても弾きやすくできています。また他社に比べて音色数が多いことも特徴で、通常は30種類の音色が搭載されています。ピアノ以外の音色、特にエレピ、オルガン系はなかなかリアルで良質です。

ローランド

電子楽器の老舗メーカーで、グランドタイプからポータブル型まで幅広くラインナップしています。価格的にはやや高めというところでしょうか。特筆すべきは鍵盤の良さです。10万円未満のクラスでも鍵盤には滑り止め加工がされており、触った感触がとても良いです。タッチは若干クセがあるので人によって好みが分かれるかもしれませんが、とても弾きやすい鍵盤だと思いますね。個人的に10万円未満のクラスでは最高の鍵盤だと思います。

カシオ

言わずと知れた家電系メーカーですが、古くから電子ピアノも出しています。概ねリーズナブルな価格帯が多いですが、30万円を超えるCELVIANO Grand Hybridシリーズもあります。ポータブル型にはとてもスリムで軽量なモデルがあります。昔はあまりタッチが良くない印象がありましたが、最近のものはずいぶん良くなっていて、CELVIANOシリーズであれば他社と遜色ないレベルと言えるでしょう。ただポータブル型のPriviaシリーズになるとタッチにちょっとクセがある気がします。というのは鍵盤の支点(見えない部分です)までの距離が短いため、鍵盤の奥の方を弾くと明らかに重いのがわかります。これは気になる人には気になるでしょう。また耐久性についてもよく疑問視されますが、家電量販店などの展示品を触ると鍵盤がグラグラになっているのをよく見かけます。長く弾いているうちに鍵盤のタッチが変わってくることもあるようです。個人的にはあまりおすすめしません。

余計な機能はない方がいい

電子ピアノと言っても5万円前後から20万円以上するものまで価格帯にはかなり幅があります。安いものと高いものはどこが違うのかと言うと、まずは鍵盤の作りです。高級なものになるほどハンマーアクションが凝った作りになっており、木製鍵盤を使用するなど本物志向の作りになっています。こればっかりはお金を出しただけのことはあるでしょう。

ただそれ以外のピアノとしての基本的な部分はそれほど大きな違いはありません。音質は耳の肥えた人がじっくり聴けば違いがわかりますが、素人が聴いてもハッキリわかるほどの差はありません。5万円程度のエントリー機でもそれなりにピアノらしく聞こえます。違いは主に付加価値の部分で、高級なものになると自動伴奏機能が付いていたり、譜面表示ができて練習をサポートしてくれるものもあります。しかしそういうものはピアノを弾くのに本質的ではありません。その機能が絶対必要であれば別ですが、どうでもいい機能に高いお金を払う必要はないのです。録音機能だってレコーダーを使えばいいだけのことですから、必須とは言えません。電子ピアノはしょせん代用なんですからいくら頑張っても本物には敵わないわけで、あまり高級なものを求めても仕方ないというのが僕の意見です。電子ピアノに30万円も出すなら中古のアップライトピアノを買った方がいいんじゃないでしょうか?(あくまでも置き場所があればの話ですが)

電子ピアノは古くなる

電子ピアノというのは本物のピアノの音をメモリに録音(サンプリング)し、それを再生することによって音を出しています。ですから音質を決めるものはほとんどサンプリングの容量と言っていいでしょう。高価な製品ほど大容量のメモリを搭載しているので、それだけアコースティックピアノに近いリアルな音質が期待できます。

しかし電子ピアノというのはデジタル製品ですから、日進月歩で進化しています。特にメモリの価格はどんどん低下していきますから、10年前の最高級機といっても現在のエントリー機程度の性能しかないのが普通です。逆に言えば現在の最高級機を買ったとしても、10年後にはエントリー機にも負けるということです。

ですから電子ピアノにあまりお金をかけるのは考えものなのです。いいのは買って数年間だけで、すぐに陳腐化していきます。これはパソコンやデジタルカメラを考えればすぐわかるでしょう。電子ピアノは買い換えが前提と思って下さい。いくら年月が経っても古くならないアコースティックピアノとはそこが違います。

ということは、高いお金を出して据置型の高級機を買ってしまうと後々買い換えが大変なことになります。業者に依頼して引き取ってもらうしかないのですが、それもあまり古くなると断られる可能性があります。古い電子ピアノは粗大ゴミにしかならないのです。買い換えの可能性を考えると、自分で持ち運びが可能なポータブル型にした方が無難という考え方もあります。

実は電子ピアノが古くなっても常に最先端の音質を維持するとっておきの方法があります。それは電子ピアノを鍵盤としてだけ使い、音はパソコンのソフトウェア音源から出すという方法です。ほとんどの電子ピアノにはMIDI入出力が付いていますから必ずできます。この方法なら最新のソフトウェアを用意するだけで済むので買い換えも不要で大変経済的です。

これで鍵盤には徹底的にこだわるべしと言った理由がおわかりでしょうか? 音質はどうせすぐ古くなるのであまりお金をかけても大して意味はありませんが、鍵盤だけはいつまでも使えるのです。電子ピアノに内蔵の音源はあくまでもオマケと考えて、鍵盤のタッチ本位で選ぶことを強く推奨します。

現時点でのおすすめ機種は?

初めに言いましたように、今どきの電子ピアノは20万円以上出せばかなり良いものが買えます。どこのメーカーを選んでもそんなに大きな差はないですから、試奏してみて気に入ったのを買えばいいだけのことです。でもそこまではお金をかけられないという人も多いでしょうから、ここでは10万円以下で買えるものに絞って独断と偏見で僕のおすすめを紹介したいと思います。

なお価格についてはAmazon調べですので、楽器店で買うともう少し高い可能性があり、運送・設置費用が別にかかることもあります。

KORG C1 Air/約7万2千円

2018年版ではフラッグシップのG1 Airを推していたのですが、現在のイチオシはこれです。なぜかというと価格と性能のバランスが非常に良いからです。G1より2万円ほど安いですが、音質的にはG1に肉薄しています。G1は3種類のピアノサンプルを内蔵していますが、C1はジャーマングランド、ジャパニーズグランドの2種類、そのくらいの差しかありません。あとG1はスピーカーにちょっと良いものを搭載しているくらいですね。

それとC1の方が明らかに良い点として、音色数がG1よりも多く、独立した音色選択ボタンがあるため操作性が良好です。ピアノ音色しか使わないという人には関係ないでしょうけど、演奏中に音色を切り替えて楽しみたい人には見逃せないポイントです。もちろん鍵盤は同じRH3ですから全く違いはありませんし、重量がG1より6kg軽いのは結構大きいと思います。この価格帯で手に入るものとしては抜群にコスパが高いので全力で推します(笑)。


YAMAHA P-125/約6万円

ヤマハのポータブル型で最新鋭のモデルです。重量が11.8kgと軽量なため、ライブなどで外へ持ち出すのに向いています。この価格帯には珍しく2ウェイスピーカーを内蔵しているため、ポータブル型ながら音質はリッチでなかなか聴き映えがします。鍵盤はヤマハの廉価版に採用されているGHS鍵盤なので上位機種よりはやや劣りますが、しっかりした重みがあって悪いタッチではありません。普通に練習するには十分なレベルです。同時発音数が192もあるのでペダルを踏みっぱなしで弾いてもまず音切れの心配はないでしょう。また20種類のリズムを内蔵していてポップスなどの演奏も楽しめます。別売で3本ペダルも用意されているので将来のグレードアップも心配がありません。低価格な製品ですが、さすがヤマハらしい完成度の高いモデルなので、とにかく無難なものが欲しい方にはおすすめです。

Roland FP-30X/約7万9千円

ローランドの電子ピアノの中では2番目に廉価なポータブル型ですが、鍵盤に手抜きはなく、上位機種譲りの良好なタッチが味わえます。旧機種のFP-30からのマイナーチェンジでFP-30Xとなり、音色数が35→56に増え、最大同時発音数が128→256にパワーアップされています。また内蔵スピーカーの音質にも改良が加えられたようです。機能的にはシンプルながら、スタンダードMIDIファイルへの録音にも対応しています。14.8kgと比較的軽量なので、ライブなどで外へ持ち出すにも向いています。ポータブル型でタッチが良いものを求めている方にはおすすめできます。難点を言えば音色の切り替えがボタンを押しながら鍵盤を押さえる方式なので、演奏中に切り替えるには向かないということでしょうか。

さらに廉価なFP-10という下位機種もありますが、同時発音数が少ないのとペダル機能が貧弱なので、どうせならFP-30Xを買った方が後々まで満足できると思います。

CASIO Privia PX-S1100/約6万1千円

2021年に発売されたカシオの最新型ポータブル電子ピアノです。この機種の特徴は何と言ってもスピーカー内蔵でありながら奥行きわずか23.2cmというスリムさです。重量も11.2kgとハンマーアクション付き電子ピアノとしては軽量なのでライブなどで持ち出す際にも便利です。現在電子ピアノの売上ランキングでは一番の売れ筋になっているようで、やはりこのコンパクトさが受けているようですね。フルサイズの電子ピアノとしては珍しく電池駆動が可能なのもいいです。

前機種のPX-S1000の改良型に当たりますが、以前は別売だったワイヤレスMIDI&オーディオユニットが標準添付になったことと、音の共鳴を鍵盤1つずつ再調整したり、音響システムの改良など音質的な部分で進化しているようです。最大同時発音数は全機種と同じく192音ありますので文句ありません。オプションで3本ペダルユニットも用意されていますので、本格的なクラシック演奏にも対応できます。

試奏したところカシオらしい明るくきらびやかな音色だと思いました。バリエーションも5つありますので用途によって使い分けられます。リバーブやブリリアンス、レゾナンスシミュレーターも設定変更が可能なので、かなり音作りを楽しめそうです。鍵盤のタッチはかなり軽めですが、以前のカシオ製品にあったような鍵盤のぐらつきもなく弾きやすく感じました。また以前のカシオ製品は鍵盤の打鍵音がうるさかったですが、この製品ではかなり静かになっておりマンションなどで気になることも少ないと思います。

少しだけ難点を言いますと、スリム化の影響で鍵盤の支点が短くなっており、奥の方を押さえるのが重くなります。カシオの鍵盤はどれもそうですが、この製品は特に顕著に感じます。スリム化と引き換えなので仕方ない面があるのですが、アコースティックピアノに慣れた人には違和感があるかもしれません。また音色の選択はファンクションキーを押しながら鍵盤を押す方式なので、演奏中に切り替えるには向きません。あとスピーカーが後ろ側に付いているので人に聴かせるには良いのですが、演奏者にはややパワーが弱く感じられます。自宅で使うには壁で反射させるなどの工夫をした方がいいでしょう。

KORG D1/約4万4千円

これは一般的な電子ピアノとは少し性格が異なり、スピーカーを内蔵しないステージピアノというジャンルに入ります。その分、非常にスリムに仕上がっていますから、ライブで持ち出したい人には一番のおすすめです。重量が16kgとそれほど軽くはありませんが、車があれば何とか持ち運べるレベルでしょう。すでにDTMなどをやっていて、ちゃんとしたモニタースピーカーを持っている人にはおすすめです。

鍵盤はコルグ最上位のRH3鍵盤が採用されているので文句ありませんし、音源的にはC1 Airと同等のものだと思います。タッチは本物よりも重いくらいですので、指を鍛えるには向いていると思います。スピーカーが付いていないことを不安視する人がいるかもしれませんが、もともと電子ピアノに内蔵されているスピーカーはそんなに良いものではないので、しっかりした外部スピーカーを使った方が良い音がします。もちろんヘッドホンしか使わないという人であれば何の問題もありません。外部スピーカーの費用が別にかかりますが、とりあえず音を出したければ数千円で売っているスマホの外付けスピーカーでもOKですし、極端な話、ダイソーの300円スピーカーでも結構良い音がします(笑)。個人的に気に入らない点としては、鍵盤の表面がツルツルなので指が滑りやすいことくらいでしょうか。

実際にD1を購入しましたので、下の記事でさらに詳しくレビューしています。よろしければ合わせてお読み下さい。

KORG D1のレビュー
2018年5月に発売されたKORGのデジタルピアノD1をこのほど購入いたしましたのでレビューを兼ねて紹介します。 これまでは同じKORGのSP-250というモデルを使っていました。2012年1月に購入したので、7年半ぶりの買い換えと...

試奏のポイント

音質はYouTubeのレビューなどである程度評価することも可能ですが、タッチだけは自分で触ってみないことにはわかりません。ですからできるだけ楽器店に行って試奏されることをおすすめします。

ただ地方だと楽器店にも一部のメーカーしか置いていなかったり、目当ての機種がない場合もあります。その場合は同じメーカーの機種を弾いてみればだいたいわかります。鍵盤はメーカーごとに共通のユニットを使用していることが多いので、メーカーが同じならばだいたい似たような傾向があるからです。

試奏するときは、曲が弾ける人はいいですが、何も弾けない人は単音だけでなく和音も弾いてみることをおすすめします。単音と和音では聞こえ方も違うからです。コードがよくわからない人は「ドミソ」だけでも覚えておきましょう。また低音と高音では音質が変わる場合もあるので、必ず両端まで弾いてしっかり聴き比べましょう。弾けない人はとりあえず右端のペダルを踏みながら低音から高音までド・ミ・ソをアルペジオで弾いていくのがおすすめです。

本物のグランドピアノは低音ほどタッチが重く、高音は軽くなるようにできています。高級な鍵盤ならそこまで再現されていますのでチェックしておきましょう。タッチは押さえるときだけでなく、戻るときの挙動も非常に重要です。バネの力で一瞬で戻ってしまうようなものはダメで、指に吸い付いてくるような感じでフワッと戻るのが理想的です。

電子ピアノ選びは慎重に

電子ピアノというものは大型商品ですから、一度買ってしまうと買い換えが大変です。何台も電子ピアノを置くことはできませんから、もし失敗したと思ったら前のを処分して買い直さなければなりません。これは金銭的なことよりも処分の手間が大変です。

ポータブル型なら車があれば自分でリサイクル店に持ち込むことも何とか可能ですが、据置型だと業者を呼んで引き取ってもらわなければなりません。買い換えはとにかく面倒なことになりますので、最初の電子ピアノは失敗のないように慎重に選びたいものです。

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