幻想即興曲はこうすれば弾ける

ピアノを弾き始めた人には誰しも「憧れの曲」というものがあると思いますが、中でも多いのはショパンの「幻想即興曲」ではないでしょうか? 確かにこれが弾けるとむちゃくちゃカッコイイですね。そこへたどり着くにはものすごく遠い道のりかもしれませんが、いつかは弾いてみたいと目標にしている人も多いと思います。しかしこの曲は難曲としても知られています。どこが難しいのかというと、右手が16分音符4つを弾く間に左手がそれを3つに分けた3連符を弾くという「4:3のリズム」が終始繰り返されるからです。しかもテンポがものすごく速い。これを弾ける人は神業と思われたりします。

この4:3のリズムというのは人間にとって最も難しいものの一つです。試しに机を叩きながら、「左手で4つ打つ間に右手で3つ打ってみて」と言えば、普通の人にはまずできません。必ずどちらかに引きずられてしまうからです。例えばA4の用紙を三つ折りにする機会というのはよくあると思いますが、均等に折ることはなかなか難しいですよね。それと同じで、人間は半分や1/4にすることは簡単でも、3等分するということは非常に苦手なのです。

では幻想即興曲を弾くことは永遠に不可能なのか? 生まれつきの特殊な才能がなければ無理なのか? 安心して下さい、そんなことはありません。実はこのリズムを完璧に身に付ける方法があるのです。それはセンスに頼るのではなく数学ですから、誰がやっても確実にできます。これがマスターできれば幻想即興曲を弾くのは夢ではありません。今からその方法について解説していきましょう。

4:3のリズムを身に付ける方法

例として、下のような譜面があったとします。こういうのはポピュラー音楽でもよく見かけるパターンですね。たいていの人は「だいたいこんな感じ」と「勘」で弾いていることが多いと思いますが、自分の演奏を録音して聴いてみるとたいがい3連符が均等になっていないことが多いものです。

4_3_rythm_score

この場合、左手が4つ弾く間に右手が3つ弾くわけですが、最初の音を除いて両手が一致するところがどこにもないですよね。だから難しいのです。これが普通の4分音符や16分音符であれば必ずどこかで拍に一致するタイミングがありますから、それを手がかりに両手を合わせることが可能です。では拍に一致するタイミングがないときはどうするかと言うと、無理やり作ってしまえばよいのです。

12等分して考える

そのためには数学で言う「最小公倍数」という考え方を導入します。最小公倍数というのは2つの数のどちらの倍数にもなる最小の数という意味ですが、4と3の最小公倍数は4×3=12となります。12は4でも3でも割り切れることはすぐおわかりですね。そしてこの最小公倍数を使って、8分音符4つと3連符からなる一つのグループを12等分して図解すると次のようになります。

4_3_rythm_1

すると左手は12等分した単位の3つずつ、右手は4つずつ弾けばよいことがわかります。といってもそれだけで弾くことは難しいので、どちらかの手を基準に考えることにしましょう。この場合、当然左手の8分音符を基準にするのが自然です。なぜなら8分音符は完全に拍にはまっているのでタイミングを取りやすいからです。

要は左手を基準にして、右手がどのタイミングで弾けばよいのか?を把握すればよいのです。まず最初の1音は左手と同時に弾くことはおわかりですね。問題は2つめと3つめの音がどこで入るか?です。上の図からは左手が2番目の8分音符を弾いた直後に右手が2つめの音を弾き(5のタイミング)、左手が4つめの8分音符を弾く直前に右手が3つめの音を弾く(9のタイミング)ということがわかります。また3つめの8分音符(7のタイミング)を中心にして左右対称になっていることもわかりますね。ここまでわかればかなり頭が整理されてくるはずです。つまり右手が弾くのは「2つめの8分音符の直後と4つめの8分音符の直前」です。

音声化してみよう

ただ上のように数字で表現すると声に出して数えることが難しいので、音でリズム化することを考えましょう。別に何でもいいのですが、例えば下のように8分音符1個を3分割して「ズタタ」という音で表現することにします。「ズタタ」を4回繰り返すと1サイクルになります。そしてこれを声に出しながら弾くのです。

4_3_rythm_2

まず「ズ」のタイミングで左手の8分音符を弾くことはおわかりですね。それに右手の音を合わせていけばよいわけです。1回目の「ズタタ」の「ズ」で両手同時に弾いた後、2回目の「ズ」で左手の2番目の音、上の楽譜で言うと「ラ」の音を弾きます。そしてすかさず次の「タ」のタイミングで右手の2番目の音、すなわち「ミ」の音を弾くわけです。そして3回目の「ズ」で左手の3番目の音、すなわち「ド」の音を弾きます。ここまでは割と簡単にできると思います。

一番難しいのは右手の3番目の音、すなわち「ファ」の音のタイミングだと思います。ここは3回目の「ズタタ」で左手の3番目の音を弾いて一呼吸おいた後に右手の3番目の音が入ります。つまり「ズタタ」の一番後の「タ」のタイミングです。この一呼吸おく感覚が慣れないとなかなか難しいと思うのですが、ズタタズタタ・・と言いながらやれば「タ」を1個挟む感覚がわかってくると思います。そして右手が3番目の音を弾いた直後の「ズ」で左手が4番目の音、すなわち「ラ」の音を弾きます。これは前半部分とちょうど逆の関係ですね。あとは「タタ」と2つ分待ちを入れて再び頭に戻り1サイクル完成です。

最初はこれをものすごくゆっくりやって下さい。ズタタズタタ・・と声に出して一つずつ確認していけば誰にでもできるはずです。いきなりピアノを弾くのが難しければ両手で机を叩くだけでも構いません。それでもリズムは身に付きます。慣れてくれば徐々にテンポを上げていって下さい。そして右手と左手を入れ替えてどちらでもできるように練習して下さい。幻想即興曲は上の楽譜とは逆のパターンになります。

不思議なもので、この練習を何十回も繰り返していると体がリズムを覚えてきて、意識しなくても自然に指が動くようになります。そこまでいけばしめたものです。一度演奏を録音してみて、正確に3連符を弾けていることを確認してみるといいでしょう。この方法が身に付けば誰でも3連符をきわめて正確に弾けるようになります。これは数学ですから間違いようがないのです。また5連符や7連符などさらに複雑なリズムにも最小公倍数の考え方を応用することが可能です。

この4:3のリズムというのは独特の雰囲気があって、完璧に弾けると非常にカッコイイので是非ともマスターしたいものです。私も半分くらいのテンポであれば幻想即興曲を弾けるようになりました。2年くらいかかりましたけどね(笑)。この練習はピアノがなくてもどこででも可能です。机がなければ膝を叩いても構いません。電車の中とか、退屈な会議中とか(笑)、ちょっとした空き時間で可能なので暇つぶしにでもやってみて下さい。

幻想即興曲を弾くためのポイント

上の方法で4:3のリズムを身に付けることができれば、幻想即興曲を弾くのはそう難しくはありません。確かにオリジナルのテンポ指定は168BPMという猛スピードなので、そこまでできる人はよほどの上級者に限られると思いますが、80BPMくらいなら私にでも弾けます。そのくらいのテンポでも一応幻想即興曲らしくは聞こえます。この曲は和音を弾くところがほとんどなく、すべて単音なので意外と簡単なのです。ある程度慣れてくれば必ずそう思えるはずです。時間はかかるかもしれませんが、一つ一つやっていけばいつかは弾けるようになりますので、あきらめずに続けて下さい。

小節頭の休符は仮の音を入れる

上の楽譜を見て下さい。幻想即興曲の冒頭部分ですが、序奏が終わった後の開始部分に16分休符がありますね。この曲を難しくしているのは、たびたび現れる小節頭の休符なのです。上の方法で4:3のリズムをマスターできたとしても、いきなり休符で始まると次の音が入るタイミングがなかなかわからないものです。

そこでまず、こういう場合は休符を適当な音符で置き換えてみましょう。たとえば最初のフレーズならソ#の音を重ねて弾くだけでいいです。これだけでぐっとタイミングを取りやすくなります。慣れてくればその音を外して弾けばOKです。

拍の頭をきっちり合わせる

上の楽譜を見てわかるように、右手は16分音符4個、左手は6連符を2つに分けた3連符が一つのブロックになっています。これが4:3のリズムを作っているわけで、ちょうど4分音符1個分に当たります。ですから各ブロックの頭が拍ときっちり合っていなければならないのです。まずこれができてないと話になりません。きっとメチャクチャな演奏に聞こえます。

初めに12等分して考えると言いましたが、それは方法論であって、数学的に厳密に合っていなければならないというわけではありません。いくらプロでも完璧に12等分できる人なんていないでしょう。それよりも拍の頭さえきっちり合っていればそれなりに弾けているように聞こえるのです。音楽は数学ではないのですから、厳密さを求めるより聴いている人が心地良ければそれでいいのです。

中間部も意外と難しい

幻想即興曲は3部形式になっていて、提示部と再現部の速い部分さえ弾ければ中間部は楽勝と思う人がいるかもしれませんが、そんなに甘くはありません(笑)。実は中間部も同じくらい難しいです。こちらもやはり4:3と3:2のリズムが両方とも現れます。これは意外とできてない人が多いようで、適当に弾いちゃってる人が見受けられます。

中間部のややこしいところは、付点音符や32分音符、それに装飾音符がたびたび現れることです。このため複雑そうに見えますが、ちょっと考え方を変えれば提示部と同じ4:3のリズムでいけるということがわかります。

たとえば付点8分音符と16分音符の組み合わせは16分音符4つと考えれば4:3のリズムになるわけで、後の16分音符をどのタイミングで弾けばいいかは自ずとわかるでしょう。

また32分音符が出てくると複雑すぎて頭がおかしくなりそうですが(笑)、実は32分音符4個で8分音符ですから、結局は3:2のリズムに帰着します。4:3に比べれば3:2は簡単です。要は32分音符の最初の音が入るタイミングさえわかれば、あとは適当に弾けばよいのです。もうちょっと厳密にやりたい人は、32分音符2個を16分音符と考えれば4:3のリズムに帰着できます。装飾音符になっているところも、実質32分音符と考えて差し支えありません。その分、前の音に食い込んでいると思えばいいのです。

これだけは気をつけたい

速く弾かない

幻想即興曲の魅力は何と言ってもあのスピード感だと思います。オリジナルのテンポ指定は168BPMとなっており、人間の限界に近い速さです。速く弾けるほど上手いと思われるので、ほとんどの人は速く弾くことばかり意識してしまいます。でもこれは絶対やってはダメです。

当たり前ですが、ゆっくりやってできないことは速くやるともっとできません。でもたまに速くなら弾けるけどゆっくりは弾けないという人もいますね。それは弾けるんじゃなくて「ごまかして」るだけなんです。速く弾けば細かいところがメチャクチャでもわからないですからね。

速く弾くのは後からで構いません。最初はゆっくりと正確に弾くことを心がけましょう。正確に弾くことさえできればテンポを上げるのは難しくありません。グチャグチャで速い演奏より、ゆっくりでも正確な演奏の方がカッコイイと思いましょう。

メトロノームに合わせて弾く

これもテンポと関連しますが、難しいところはゆっくり、簡単なところは速くなったりしてテンポが乱れがちです。これも一番やってはいけないことです。メトロノームを使って一定のテンポで弾くことを心がけましょう。

最小は60BPMくらいの超スローで構いません。メトロノームに合わせてインテンポで弾くことが重要です。もちろん拍の頭をきっちり合わせることを意識します。それができるようになったら70~80BPMまで上げていきましょう。これでも思ったより速いですよ。経験的には85BPMで弾ければそれなりに幻想即興曲っぽく聞こえます。

できるだけ指使いは守る

楽譜には指番号が書かれています。これは模範的な指使いとして考えられたものです。といっても絶対的なものではないので、自分が弾きやすいと思う指使いがあればそこは適宜変えても構いません。私みたいにピアノを習ったことがない人はその辺がいい加減で、ついつい自己流の指使いをやってしまってますね(笑)。

ただ指使いというのはやはり合理的なもので、次の音へスムーズにつながるように考えられているのです。ゆっくりであれば自己流の指使いでも弾けたりしますが、テンポが速くなるほど差が出てきます。ですから可能な限り、楽譜に指定された指使いは守った方が良いのです。

苦手なところだけ繰り返し練習する

よくやる練習方法として、初めから順番に弾いていくというのがありますが、これは非常に効率の悪い方法です。一曲通して弾いたとしても、各部分としては一回しか弾いていないわけです。時間は限られてますから、そんなに何回も弾けません。それではいくらやっても上手くなりません。

誰でも得意な部分と苦手な部分が必ずあると思います。得意な部分はすでに弾けるのですから、あえて練習する必要はありません。それより苦手な部分を抽出し、そこだけを何十回でも繰り返し練習するのです。どんな難しいフレーズでも繰り返し練習すればいつかは弾けるようになります。そうやって苦手な部分を一つ一つ潰していけば、いずれは全曲すらすらと弾けるようになるのです。

左手を意識する

幻想即興曲の場合、右手は16分音符なので比較的正確に弾けますが、左手の3連符はどうしてもバラバラになりがちです。よくあるのは8分音符1個+16分音符2個みたいになってしまってるパターンです。こういうのは自分ではなかなか気付きませんが、聴き手にはすぐバレてしまいます。

そこで練習するときは左手に全神経と耳を集中し、3連符が正確に刻まれているか意識しましょう。これをやるかやらないかは大きな違いです。

ダンパーを踏まない

これもよくやってしまう失敗ですが、練習の時はダンパーを踏んではいけません。なぜかというと、「上手く」聞こえてしまうからですね。たとえて言えば、風呂で口ずさむと下手な歌も上手く聞こえてしまうのと同じ理屈です(笑)。ダンパーを踏むと音が濁ってしまうので、少々タイミングがずれたり、音が飛んだとしても気付きにくいのです。結果として上手く弾けたように錯覚してしまうので、いつまで経っても上達しません。ダンパーを踏まないとすごく下手になったように聞こえますが(笑)、それを克服して初めて上手くなるのです。

コメント

  1. スズメ より:

    長年の悩みを解決に導く光のようで、自分は永遠にこの類の曲は弾けないものと諦めていました。弾けてる人に聞いても感覚的に出来てるらしく。。。こんな風に凄く分かりやすい解説を有難うございました。

  2. 管理人 より:

    >スズメ様

    お役に立てましたら嬉しいです。
    私も絶対弾けるわけないと思っていた幻想即興曲が少しずつ弾けるようになってきました。
    確かに慣れると感覚的にできるようになるのですが、最初は論理的に理解することが大切だと思います。

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