ただ暗譜するのではなく曲の構造を分析しよう

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ベートーヴェン ピアノソナタ第8番『悲愴』第3楽章冒頭の楽譜
ベートーヴェン ピアノソナタ第8番『悲愴』 第3楽章冒頭(簡単のために装飾音符は省略しています)

電子ピアノを購入してまもなく3週間。毎日欠かさず練習していますが、とにかく何か一曲弾けるようになりたい(楽譜を見ずにという意味で)ので、適切な目標を探しました。いきなりショパンの『革命』とか絶対無理ですので(^^;、割と弾きやすそうな曲ということで、ベートーヴェンの『悲愴ソナタ』を選びました。この曲はベートーヴェンのピアノソナタの中で一番好きな曲です。第2楽章が特に有名ですが、僕は第3楽章が一番好きです。昔ちょろっと弾いていたこともありますが、途中で挫折しました。(^^; でも今もう一度見てみると、テンポは速いですが、楽譜にして6ページ分と割と短いので暗譜も割と楽にできそうな気がします。最初はとにかくゆっくり確実に弾くことを心がけることで、速く弾くのは自然とできるようになるものです。


弾けるようになるためにはとにかく暗譜しなければならないのですが、ただ丸暗記するのでは面白くありません。今までの自分はただ手の形を丸暗記しているだけで、曲の構造がどうなっているか、まったく考えもしなかったんですね。でも曲がりなりにも作曲を志すからには曲の構造をちゃんと理解しながらやった方がいいに決まってます。せっかく目の前に偉大な作曲家が残した素晴らしいお手本があるのですから、それを利用しない手はありません。すべては「真似る」ことから始まるのです。メロディーとコードの関係がどうなっているか、その仕組みを分析(アナリーゼ)しながら覚えていけば、やみくもに丸暗記するよりも確実に暗譜できるでしょう。もちろん、その技を盗むことによって自分の作曲にも必ず役に立つはずです。ピアノの演奏と作曲は常に一体で考えなければなりません。

さて『悲愴ソナタ』第3楽章の冒頭17小節だけですが、自分なりにコードを付けてみました。多少間違ってるところもあるかもしれませんが、おおよそは合っていると思います。この時代の曲というのはそれほど複雑なコードは使われていませんので、解析するのも楽なんですね。初心者でも知っているダイアトニックコードで8割方は解決してしまいます。それにこの曲はハ短調ですので、僕みたいにCから数えるのが習慣になっている人には非常にわかりやすいのです(笑)。

まず全体を見渡して、G7もしくはG→Cmという定番のドミナント終止が多用されていることがわかります。これは基本中の基本ですね。たまにサブドミナントのA♭が挟まったりもしますが、ほとんどこれだけと言っても過言ではありません。あと効果的に使われているのは、5小節目あるいは9小節目のFdimです。ディミニッシュコードというのは転回させても同じになる性質を持っていますので、これの第2転回形がBdimになるわけです。すると半音上のCmに解決するのが理論的にも説明できます。ディミニッシュコードは半音上のトニックに解決する性質を持っているからです。

この楽節の中で一番かっこいいと思うのは、12小節目の矢印で示した「シ」の音ですね。ここは理論的に言えば次のFmへドミナント進行するC7のコードになっています。いわゆるセカンダリードミナントですね。コードがC7で右手のメロディーはシ♭を弾いていますから、左手も本来ならシ♭を弾くべきですが、あえてナチュラルが付いているところがミソです。こうするとメロディーとは長7度音程となりますが、これは言い換えれば半音でぶつかる音程になりますね。本来なら避けるべき音程です。しかし実際に弾いてみるとわかりますが、これは決して「汚い音」ではなく、実に心地良い緊張感を生み出していることがわかります。もしこれが普通にシ♭だったら、かなり間の抜けた感じになると思います。ルートヴィッヒさんはちゃんとそこまで計算して作っていたのですね。さすがは楽聖!と思いました。

こうやって解析してみると、作曲の過程というものもおおよそ見えてくると思います。この楽節を見渡してみると、左手はほとんど分散和音でできていて、メロディーも和声音を骨格として作られていることがわかります。あとはそれに少し装飾が付いているだけできわめて単純、基本中の基本です。おそらく先にコード進行があって、そこからメロディーをひねり出していったものと思われます。それでいてこれだけ美しいメロディーを書けるんですから、やはり天才と言うほかありません。こうやって作曲の過程まで想像してみるのも楽しいのではありませんか? 「どうやってこんな曲が書けるのだろう?」と思える曲だって、その仕組みを解析してみると案外単純なものですよ。

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